統合失調症の患者で、知覚や認知機能をつかさどるとされるγ(ガンマ)帯域(30~100Hz)皮質活動を詳細に調べたところ、音を聞かせた際に、音刺激に同期するγ帯域皮質活動の「同期γ」が低下する一方、音刺激中の自発活動であるγ帯域皮質活動の「自発γ」が上昇していることを、九州大学精神科神経科の平野羊嗣(ひらの ようじ)特任助教と鬼塚俊明(おにづか としあき)講師、神庭重信(かんば しげのぶ)教授らが初めて見いだした。統合失調症の脳波診断に使えそうだ。米ハーバード大学との国際共同研究で、1月14日付の米医学誌JAMA Psychiatryオンライン版に発表した。
統合失調症は、高い発病率(1%程度)と、疾患に伴う大きな損失にもかかわらず、原因はまだ不明で、病態解明は課題となっている。近年、統合失調症で、知覚や認知機能に関連するγ帯域 の大脳の皮質活動が異常をきたすことがわかってきた。統合失調症では、種々の知覚刺激によって誘発され、刺激に同期する同期γは低下していることが知られているが、自発活動としての自発γの動態や、同期γと自発γの関係は調べられていなかった。
研究グループは、統合失調症患者と健常者のそれぞれ24人で、20、30、40Hzと頻度の異なる連続クリック音を聞かせた際の脳活動と、安静時の脳活動を脳波で測定し、γ帯域皮質活動(音刺激に対する同期γ、刺激中の自発γ、安静時自発γ)を解析した。健常者に比べ、統合失調症患者では、 安静時の自発γで違いはなかったが、刺激中の自発γは、20Hzと 30Hzの音では脳の両側で、40Hzの音では特に左聴覚野で増加していることがわかった。
一方で、統合失調症患者の左聴覚野では、40Hz音刺激中の同期γは顕著に減少していた。刺激中の自発γが高いほど、同期γが低いことも浮かび上がった。さらに、統合失調症患者の左聴覚野で、音刺激中の自発γが高いほど、幻聴が重症であることが判明した。刺激による自発γの異常な上昇は、統合失調症のモデル動物のマウスなどの結果とも一致した。
平野羊嗣特任助教は「脳の自発活動に関心があり、それに焦点を当てて研究した。統合失調症の聴覚野では、外からの音刺激で自発γが異常に上昇し、ランダムに活動することで、結果的に刺激に対する同期性が低下する。さらに、この異常な自発γの上昇が幻聴の発生に関わっている可能性がある。今後は、このγ帯域皮質活動異常が統合失調症の発症前後のどの段階で出現するのかを調べて、早期の診断の補助や早期治療介入への応用を目指す予定」としている。神庭重信教授も「統合失調症の診断には今も脳波を使っており、音を聞かせる検査を加えるだけで、簡単に測定できる。患者の負担も少ない。統合失調症の診断の補助に使う可能性を探りたい」と話している。