遺伝子のDNAの損傷の測定に新しい手法が登場した。炭素イオンビームをDNAに照射したところ、X線やガンマ線に比べて、遺伝子のDNAの傷がナノ(ナノは10億分の1)メートルオーダーで塊になっていることを、原子力研究開発機構(原子力機構)関西光科学研究所の赤松憲(あかまつ けん)副主任研究員と鹿園直哉(しかぞの なおや)グループリーダーらがこの新手法で発見した。
重粒子線の高いがん治療効果が、DNAの複数の傷が互いに近接、密集して生じるためであることを示す重要な根拠といえる。また、放射線や化学物質などによるDNA損傷と修復の研究に新しい手がかりを与えた。1月15日付の米放射線科学会誌Radiation Researchオンライン版に発表した。
研究グループは、DNAの傷のうち、アルデヒドやケトン構造を含むものに蛍光分子の目印を付け、DNA の二重らせんの2、3回転ほどの10ナノメートル以内に近接した蛍光分子の間で生じる蛍光共鳴エネルギー移動を利用して、蛍光強度の変化からDNAの傷の分布を観察できる新手法を初めて開発した。この手法でDNAの傷のミクロな分布測定に道を開いた。
原子力機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA)で発生させた炭素イオンビームをDNAに照射して、新手法でDNAの傷の分布を測定した。その結果、X線やガンマ線に比べて、蛍光共鳴エネルギー移動の効率が大きく、DNAの傷が塊となっていることを確かめた。「DNAの傷が密集するほど、傷の修復が難しくなり、細胞死に至る確率が高まる」とする従来の説を裏付けた。
赤松憲・副主任研究員は「検出対象としたDNAの傷は主要な放射線損傷なので、この手法がDNAの傷の微視的な分布を観測したとみてよい。近接した蛍光分子間で起きる蛍光共鳴エネルギー移動はタンパク質凝集性の研究などで広く使われているが、DNA損傷の研究に応用したのは初めてである。この手法は、さまざまな放射線治療の効果をDNAレベルで判定するのに役立つ。また放射線障害の研究にも広く使えるだろう」と話している。