12月28日~30日の3日間、東京・有明の東京ビッグサイトで行われている「コミックマーケット87(コミケ87)」。年に2回行われるこのイベントには、3日間で60万人近くの来場者がいると言われている。日本で一番、携帯電話のトラフィックが増えると言われているこのイベントでKDDIとソフトバンクがどのように電波対策を行っているのか、初めにKDDIの対策をご覧いただこう。

KDDIはコスプレしつつも、"人間Wi-Fi隊"がフル稼働

コミケにおける電波対策については、コミケ85の「ついにコスプレまで! - 進撃の巨人とコラボしたKDDIのコミケ電波対策」とコミケ86「ソフトバンクは気球、KDDIはCA - 携帯キャリア、コミケ対策の裏側」でもレポートしてきた。

こうした電波対策では

  • 携帯キャリアとして提供するWi-Fiサービスにトラフィックをオフロード(退避)させることで、混雑を解消

  • 臨時の車載型基地局を投入することで3G、4Gのネットワーク容量を増やし、そもそも混雑させない

という対策を行う。

今回は、トラフィックをオフロードさせるKDDIの「人間Wi-Fi隊」に密着した。

トラフィックの平準化が重要

「人間Wi-Fi隊」は、コミケ会場内を携帯キャリアの人間が練り歩き、背中に背負ったWi-FiアクセスポイントによってWi-Fiサービスを提供するもの。この図式は、主要3キャリアが共通して取り入れているものだが、Wi-Fiのその先となる「バックホール回線」はそれぞれ異なる。

実は「オフロード」と言いながらも、各キャリアはこのバックホール回線で一般ユーザーと同じ4G回線を利用している。KDDIであれば、4G LTEとWiMAX、ソフトバンクであればLTEやWCPのAXGPといった具合にだ。

「それでは、オフロードの意味がないのでは?」と思うかもしれないが、携帯キャリアとして見た場合に「一部の周波数に偏っているトラフィックを平準化できる」というメリットが、ユーザーにとっては「大容量の通信を行ったとしても、Wi-Fiであれば当月の使用パケット量に加算されない」というメリットが存在する。

一部の周波数にトラフィックが偏る理由は「スマートフォンやルーター側の周波数対応状況」だ。例えば、筆者がメイン端末として利用するKDDIのXperia Z1は、WiMAX2+(TD-LTE 2.5GHz帯)に非対応であるし、最新端末のiPhone 6 / 6 PlusはKDDIのLTE 1.5GHzに対応していない。

こうした事情から、Wi-Fiに一旦トラフィックを集約し、多くの周波数帯に対応しているWi-Fiアクセスポイントのバックホール回線で周波数帯の利用状況を見ながら、あまり混んでいない帯域にオフロードすることで、ユーザーが快適に利用できる通信環境を提供するわけだ。

朝7時から人間Wi-Fi隊が出動

KDDI 運用本部 ネットワークオペレーションセンター アクセスグループ 課長補佐 内藤 正儀氏(画像提供:KDDI)

コミケ対策の朝は早い。KDDIの人間Wi-Fi隊は朝の6時30分過ぎ、東京ビッグサイト近くに集合。7時頃からWi-Fi隊がトラフィック対策に走りだす。

なぜこれほどまでに朝早くから対策を行うのか。コミケは事前の徹夜待機が禁止されており、始発や近隣のホテルに泊まって10時の開場に備える来場者が多い。しかし、3日間で60万人が来場するイベントのため、早朝であってもトラフィックが相当増えるとKDDI 運用本部 ネットワークオペレーションセンター アクセスグループ 課長補佐の内藤 正儀氏は語る。

「徹夜待機が禁止されていると言っても、近隣に宿泊される方や、徹夜待機をしてしまう方々がいるため、前日の夜からトラフィックが増大しています。ピークは、早朝から並んだお客様とゆっくり来場したお客様が一番混み合う11時~12時ですが、7時~8時にトラフィックがぐっと増える朝の待機列対策はその中でも重要です」(内藤氏)

朝7時前に出発するWi-Fi隊(画像提供:KDDI)

待機列への対策は3キャリアがこぞって行っており、実際に複数の場所でそれぞれの人間Wi-Fi隊が並んでいる様子が見られた。これは、各社が「特に混雑が見られる」と分析した上でWi-Fi隊を配置しているためで、当然トラフィックの増大傾向も似てくるので、場所の重複が起きるようだ。

こうした活動は決してKDDIだけのものではない。各社がユーザーのために多くの人員を投入している

KDDIは、こうしたトラフィック量の監視を新宿で行っている。KDDI 技術統括本部 運用本部 運用品質管理部 特別通信対策室でマネージャーを務める伊藤 義隆氏は監視業務を取りまとめているが、「通常よりも多い10~15人態勢でトラフィック量の監視を行っている」と話す。

トラフィック量の監視は、携帯基地局でどれだけのパケットが流れているか、どこかの基地局に偏っていないかなどを見ている。ただ、これだけではなく、Twitterなどでユーザーの「繋がらない」「回線が重い」といった声を拾うことで、「ユーザーが体感している通信環境」にも目を見張る。

「どこで多くのトラフィックが流れているか、基地局ベースでは数百m四方で、Wi-Fiでは半径25m程度で把握できます。双方の状況を監視しながら、現場に移動をお願いするわけです」(伊藤氏)

人間Wi-Fi隊の魅力はまさにここで、トラフィックがある場所に集中してしまった場合、そこに人間を移動させるだけで、トラフィックのオフロードができる可能性が生まれることになる。

ドラゴンレーダー?

遠隔地でトラフィックを監視する一方、現場で働く人間Wi-Fi隊も黙って歩いているわけではない。KDDIは今回から、自分が背負っているWi-Fi アクセスポイントにどれほどのユーザーが接続しているか調べる、通称「ドラゴンレーダー」と呼ばれるアプリを投入した。

ドラゴンレーダーといえば、人気アニメ「ドラゴンボール」で登場したドラゴンボールの位置を把握するブルマ発明の機械だが、それになぞらえて命名されたこのドラゴンレーダーでは、ユーザーの同時接続数やどれほどのトラフィックが流れているかなどを手元のスマートフォンで確認できる。

ドラゴンレーダー。アニメと同様に緑がかっている

KDDI研究所が開発したこのアプリは、当然ながら一般に公開されているわけではない。背中に背負ったWi-Fiアクセスポイントに接続しているドラゴンレーダー専用のアクセスポイントに接続して、公開アクセスポイントのデータを取得する。

「アクセスポイントでは、様々な情報を取り扱っています。ただ、取得しているのは接続数と電波強度だけ。接続されているスマートフォン1台1台に割り当てられているMAC Addressなどもわかるのですが、こちらで変換して個人を特定できないようにしています。また、どのような端末を使っているかについても取得していません」(内藤氏)

実際に利用している現場を見せてもらったが、1カ所あたり30人程度がWi-Fi接続していた。この数字を多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだが、使われているデータ通信量が数百MBに達していることを考えるとなかなかの数字だろう。

なお、画像から見て取れるように、au Wi-Fiでは2.4GHz帯がほとんど使われていない。これは「Wi-Fi以外にも多くの無線に使われている2.4GHz帯を避けることで、混信を避ける」(内藤氏)意図があるという。屋外でも利用できる5GHz帯のチャネルを利用することで、その混雑を避けるようだ。

一人ずつWi-Fiアクセスポイントの運用に問題がないかチェックする内藤氏。昼前にいったん解散したものの、内藤氏はコミケ会場内をその後も歩き回り、通信状態の悪い場所がないかチェックを重ねていた(画像提供:KDDI)

「ありがとう」という声に応えるために

内藤氏は人間Wi-Fiの利用状況が、回を重ねるごとに増大していると話す。

「コミケ85とコミケ86の比較では、1.5倍のトラフィック量となりました。これは、ユーザー数の増加というよりも、キャリアのWi-Fiサービス利用者が増えたものだと思います。また、その場で写真を撮影してSNSへすぐにアップロードするといったユーザーのネット利用動向の変化もあると感じています」(内藤氏)

複数の方から話を伺う中で、Wi-Fi利用者の増加はKDDI社員がノリノリ(?)で行うコスプレの宣伝効果も大きいという声が聞かれた。

これまでの社員によるコスプレ

今回もアニメ「デュラララ×2」とのコラボレーションを行っており、ニコニコ動画公式のコミケ生中継にも出演するなど、反響があったようだ。

企業ブースでどデカショッパープレゼントも

これまでコスプレを行ってきた社員が去り、さわやかな女性社員がコスプレに参戦していた

また、ソフトバンクのコスプレWi-Fi隊とKDDIのコスプレWi-Fi隊が夢の共演を果たし、多くの来場者が足を止めていた。

まさかの両社がコラボレーション。多くの通行人が足を止めて記念撮影していた

ソフトバンクの車載型基地局でもキッチリ撮影

ただ、こうした"飛び道具"も、地道なトラフィック対策があってこそのもの。それもユーザーそれぞれが体感しているようで、現場のWi-Fi隊に対して「お疲れ様」「ありがとう」といった声をかけるそうだ。

「寒い中、朝からずっと歩きっぱなし、立ちっぱなしという状況で心が折れそうな時に『お疲れ様です』と声をかけてくださった時は嬉しかったです。そういう声にこれからも報いたい、お応えしたいなと思っています」(内藤氏)