トヨタのハイブリッド車「アクア」の新CMが12月9日よりオンエアされている。同CMは、クロスオーバースタイルの新グレード“X-URBAN”の設定や内外装の意匠の変更などマイナーチェンジが図られたアクアのPRのために制作されたものだが、新しいCMソングには、国民的RPG「ドラゴンクエスト」で使用された『冒険の旅』および、「モンスターハンター」のテーマ曲『英雄の証』を起用した2パターンのCMが話題だ。

アクアはかつてから、「ニコニコ動画」で有名な楽曲や演奏者を起用したり、ファイナルファンタジーの楽曲などを活用したCMで注目を集めたが、こうしたCMの狙いをトヨタのマーケティング担当者に直撃した。

アクア LONG DRIVE 冒険篇

CMにおける音楽の重要性

今回話を伺った、トヨタマーケティングジャパン・コミュニケーション局プロモーション室第1プロモーション室の和田直樹氏によると、新作CMのコンセプトは“旅と冒険”。新たに発売された新グレード「X-URBAN」の訴求点は、クロスオーバーモデルを装ったよりアクティブで個性的なスタイリングにあることが由縁だ。

「そこで、CMの舞台として設定したのが、多くの人が“旅と冒険”の共通体験を持つ“ゲームの世界”。そこから、全世界累計6,400万本の売上を誇るRPG『ドラゴンクエスト』と、累計3,100万本を売り上げるハンティングアクションゲーム『モンスターハンター』という題材がすぐに決まりました。アクアのCMではこれまで単に有名だからという理由で楽曲を選んだことはありません。CMを制作する上で大切な要素の1つは、みんながCMを共有・共感できることなんです」と和田氏。

また、CMにおける楽曲というのは特に昨今では重要な要素でもあるという。その理由は「今の世の中、携帯とスマホのダブルスクリーン視聴(ながら視聴)も多くなり、残念ながらCMをじっくり見る人が多くないと言われています。だからこそ“耳からのマーケティング”、つまり画面にまず目を向けてもらうために、耳で引き付けることが重要と考えています。その点においてゲーム音楽は青春時代に何度も何度も聴き、身体に脳に自然と刷り込まれており、流れると即座に反応してしまうものです。ドラクエのフィールド曲である「冒険の旅」を選んだ理由は、冒険と旅をしているプレイ中に何度も何度も聴いている音楽だけに、流れると即時に身体が反応するようになっているからなのです」と明かす。

今回のCMの撮影自体は今年の9月下旬から10月頭にかけて、オーストリア、およびアイスランドで行われている。ゲームの世界観を再現するために、企画段階からロケ地選定にはかなりの時間を費やしとのことで、オーストリアやアイスランド以外の国も含めて探した結果、ゲームファンが見ても納得できる世界観のあるロケ地の発掘に至ったということだ。

「何より重要なのは、パッと見てすぐに、ゲームを再現しているのだなとわかってもらうこと。そして、どのゲームファンが見ても納得できることを重視しました。当然、スタッフも改めてゲームをやり直し、ゲーム内のムービーを繰り返し研究するなど、何カ月にものリサーチの結果、ようやくオーストリアやアイスランドに“これぞ!”という場所を見つけることができました」と和田さんは裏話を明かす。

アクア LONG DRIVE 冒険篇

アクア XURBAN 狩猟篇

カメラワークまで"ゲームの世界"の再現

さらに、ゲームの世界を限りなく再現するため、ゲーム内でのカメラワークも徹底的に研究尽くされたとのこと。「ドラクエのカメラはゆっくりと同じ速度で動く。モンハンのカメラはダイナミックな空撮で、縦横無尽に動き回る。そんな話をオーストリアとアイスランドのそれぞれ最高の空撮チームと話し合い、オリジナルのゲームと同じカメラワークで撮影することに成功しました。ヘリでの空撮では、ハリウッド映画の撮影も手掛けるベテランのクルーがあまりの動きの激しさに酔ってしまうなんてトラブルもありました」と撮影時のエピソードも明かされた。

一方、静的なイメージのあったこれまでのアクアのCMに対して、動的な印象がある最新CM。その方向転換については次のように語る。

「前回の“日本のハイブリッド”、今回の“LONG DRIVE with HYBRID”ともに、“FUNな国民車”という大きなポジションをAQUAとして獲得するためのコミュニケーションという点では考え方は変わっていません。しかし、改めてハイブリッドの価値や、よりアクティブになったスタイリングを、マイナーチェンジのタイミングで提示していくことが重要だと考え、動的なクリエイティブを今回は展開しています」

アクア LONG DRIVE 冒険篇

アクア XURBAN 狩猟篇

次回のCM楽曲は?

また、ソーシャル上の反響では概ねポジティブな評価を受けている新CM。これについては「まず一番は、我々の意図していたことがちゃんと視聴者のみなさまに伝わっているというところが大変うれしいです。例えば、アクアの隊列の緑色は、魔法使いなのか?、それとも武闘家なのか? と新色のことをソーシャル上で話題にしてもらえているのも大変ありがたいです。アクアが欲しくなったという意見はこの上なくうれしいのは当然ですが、ドラクエやモンハンをやりたくなったという意見は、楽曲の使用を許可していただいた関係者の皆さまにとっての恩返しにもなるのでとてもうれしいです」と率直に喜びを語る。

最後に、次回以降のCMアプローチについて問われた和田氏は「アクアのCMの制作チームは、企画時間のほとんどを音楽探しに費やしています。これまでの打ち合わせでは、1,000曲以上を検討しており、次は何にしようかと全力で考え中。オンエアでの“お楽しみ”ということで、期待してお待ちください」と含みのある言葉で答えてくれた。