「地球上には絶対にない」と信じられてきた彗星のちりが地表にあった。驚きの発見が日本の南極調査でもたらされた。南極の雪と氷の中から彗星のちりを、九州大学基幹教育院の野口高明(のぐち たかあき)教授と国立極地研究所の今栄直也(いまえ なおや)助教らが初めて見いだした。彗星の塵は非常に壊れやすく、地上で採集できるとは考えられていなかった。その長年の常識を根底から覆す発見で、生命や太陽系惑星の起源を探る彗星研究に刺激を与えそうだ。11月26日に 国際科学誌Earth and Planetary Science Lettersオンライン版に発表した。12月5日付の米科学誌サイエンスも最新ニュースで取り上げた。

写真. 南極で採取された彗星のちりの電子顕微鏡写真。左は 「とっつき岬に露出している氷を2000年に現地で溶かして作成した水」をろ過して得られた微粒子。右 は「2003~10年にドームふじ基地近くの雪原の表面の雪」を日本に持ち帰ってクリーンルームで溶かしてろ過して得られた微粒子。(提供:野口高明九州大学教授)

地球には毎年、約4万トンもの微細な地球外物質が降り注いでいる。これは、隕石の10倍以上の量になる。地球外物質の中でも最も小さい0.01mmほどの微細なちりは、高度 20km付近の成層圏まで落下してきたところを、米国の研究チームが1970年代から特殊な飛行機で採集して研究してきた。この彗星起源のちりは、0.001mmほどの鉱物などの微粒子がごく緩くつながっていて、隙間だらけでとてももろく、地表で回収できないとされていた。

彗星のちりが発見されたのは、「南極の昭和基地近くのとっつき岬に露出している氷10トン以上を2000 年に現地で溶かして作成した水」をろ過して集めた微粒子と、「2003~10年にドームふじ基地(標高3810m)近くの雪原で採集した深さ10cmまでの表面の雪」を日本に持ち帰ってクリーンルームで溶かしてろ過して得られた微粒子の中から。電子顕微鏡で観察、分析したところ、成層圏で回収されてきた彗星のちりとよく似た隙間だらけの構造を持っていた。

また、成層圏から回収されてきた彗星のちりの特徴とされる鉱物や有機物を多く含んでいた。NASAの彗星探査機スターダストが2004年にヴィルト第2彗星に遭遇して06年に持ち帰ったちりに含まれていたものと同じレッデライトという特殊な鉱物も入っていた。研究グループは「南極の雪と氷に彗星起源のちりがあった」と結論づけた。彗星のちりは、とっつき岬の深さ2mまでの氷から5個、ドームふじ基地近くの雪原から数十個見つかった。

彗星は汚れた雪球で、太陽系をつくった鉱物や有機物を冷凍保存したようなものとみられる。彗星に含まれる有機物の研究は、太陽系の中で生命の材料となる有機物がどのようにつくられてきたかを探るうえで重視されている。ただ、成層圏から微細な地球外物質を回収する際にはシリコーンオイルが使われており、これが有機物の分析に影響を与える問題が指摘されていた。南極の雪や氷から彗星の新鮮なちりが回収できたため、シリコーンオイルの汚染を受けていない彗星の有機物の研究が可能になった。

野口高明教授は「電子顕微鏡で微粒子を見た瞬間に、形態から彗星のちりとピーンときた。見つからないと信じられてきたものがあったので、大学院生らと喜びあい、感動した。汚染が進んでいない南極の雪氷の分析は、太陽系をつくった物質の冷凍保管庫である彗星の物質を手に入れる新しい方法になるだろう。南極で見つかる彗星のちりの研究が進めば、欧州のロゼッタ探査機による彗星の観測データや、日本の探査機はやぶさ2による小惑星のデータなどとも比較でき、太陽系の形成などをより詳しく探れる」と話している。