福岡市博多区に本社を置くとんこつラーメン専門店「一蘭」は、とんこつラーメンに絞ったメニューを展開、30種類以上の材料を調合して熟成させた元祖「秘伝のたれ」、衝立で席を仕切る半個室スタイルの「味集中カウンター」(特許取得)など、柔軟かつ新しい発想でラーメン界に新風を吹き込んできた。国内は九州から関東まで51店舗、海外は香港に1店舗の計52店舗に上り、その運営を220名の社員と3,500名以上のアルバイトスタッフが支えている。

「一蘭」のWebページ

マナーと心を持った「人間」の育成に注力する一蘭の流儀

一蘭 代表取締役社長、吉冨学氏

「会社は人が創るもの。心の立派な人間を育て、理念と志を共にして前進すれば、自ずと会社も成長する」

一蘭の代表取締役社長、吉冨学氏はそう語る。

心や人間性を重視する一蘭では、スタッフの教育に時間をかける。アルバイトスタッフは11段階の昇給システムでステップアップしていくのだが、評価基準にはラーメン作りだけでなく、箸の持ち方やマナーなど、人としての生き方もが含まれる。人材育成と聞くと技術や知識の習得を考えてしまうが、一蘭は「人としての心」を育てることも重視する。

福岡のある店舗では、一般道を通り休憩室に行くが、そこへ行くまでの歩き方もどう見られるかを考えさせる教育をするという。

「だるいと言いながらポケットに手を突っ込んで歩くスタッフを見たら、お客さんはどう思うだろうか」(吉冨氏)

人は紳士・淑女としてふるまうことで、次第にふるまいが本物となり、正しいマナーと相手を思いやる心を身に付けた人間が育つ。こうしたアナログな部分は、絶対に大切にしなければならないと吉冨氏は言う。

デジタル時代に生き残るための3つの法則

一方で、時代を見極める鋭敏な感性を持った吉冨氏は、デジタル技術の導入にも貪欲だ。同氏は本インタビュー前に行った「cybozu.comカンファレンス」の講演内で、デジタル時代に企業が実施するべき3つのポイントを挙げた。

1つは、デジタルを積極的に導入し、自社との相性を見極めることだ。このプロセスは1回きりで終わるようなものではなく、永遠に追求していくものとも断言する。

2つめは、らせん的発展の法則で未来を予見することだ。らせん的発展の法則とは、過去の流行や商品がワンステップ上の新しい形で復活するというものだ。らせん階段を上から見れば一周して元に戻ったように見えても、横から見れば一段上がって新しく便利に進化している。一蘭は、空調を備えるなどアレンジを加え、博多から消えつつある屋台を復活させた。

「現代の個人と会社の発展速度は、デジタル革命前と比べて18倍速いと言われている。これはつまり、人生が80歳までと考えたとき、聖徳太子の時代から現在までの1440年を凝縮して生きるようなものだ。そんな進化速度に追いつき、さらに先を予見して商売するには、未来の方向性を予測することが重要だ」(吉冨氏)

そして3つめは、生き残るのは良い人・サービス・商品のみと知ることだ。ネットの口コミ情報など、消費者にとってものを見極める判断材料は格段に増えた。ごまかしが効かないからこそ、ごまかす必要のない本物のサービスや商品を提供し、人として正しい心を育てる。

この3つのポイントを実践し続けることが、時代を乗りこなすヒントだと言う。

「サイボウズ Office」で社長と社員の心をつなぐ

そんな一蘭を裏で支えるのが、グループウェアの「サイボウズ Office」だ。2001年に「サイボウズ Office 4」を導入したきっかけは、情報共有の効率化と社内統制の徹底だった。他社製品と比較検討した結果、操作性や保守、価格に納得できたサイボウズ製品の採用が決まった。

現在は「サイボウズ Office 10」を使っており、一蘭の成長に必要不可欠なツールとして愛用されている。香港やニューヨークといった海外も含め、全国の店舗や工場、オフィスなどの約70カ」所の拠点で利用されている。

基本的な使い方は、日々の売上確認や売上結果に対する是正指示、海外店舗からの日次売上報告、今後の戦略や新規商材に関するアイディア募集、理念や行動指針に関する情報発信などだ。

だが、それ以外にも、「メッセージ」でジョークを言い合ったり誕生日メッセージを送り合ったりするなど、コミュニケーションツールとしても大いに活用しているという。人と人とをつなぎ、心を育てるという一蘭の流儀を「サイボウズ Office」が蔭ながらサポートしている。

また、経費の精算や出張申請など社内の決裁は「ワークフロー機能」で行い、各社員が自分の予定や、設備予約などを「スケジュール」で管理している。

同製品に対する現場の社員からの評価も、おおむね高い。スレッドが見づらい、フォロー欄更新に不具合があるなどの問題がある場合も、ヘルプデスクを通じて対応してもらえているという。

今後について、一蘭は2015年中にニューヨーク1号店と2号店をオープンする予定で、本格的なグローバル展開に備え、「サイボウズ Office」からエンタープライズ対応の「ガルーン」に移行を検討しているという。

7月オープンの新スポットに「心を育てる」ための新計画を検討中

今年7月、一蘭は福岡県糸島市に「一蘭の森」をオープンした。レストランや土産店などの店舗と製造工場が併設された新スポットは、東京ドーム2個分の広さを誇る。その一蘭の森に「とんこつラーメン博物館」という、ラーメンの歴史や作り方などを学べる施設がある。ここに、子供向けの劇場を作るのが夢と吉冨氏は明かす。

「商売をする、きちんとした人間になるとはどういうことかを、寸劇で分かりやすく伝えたい」(吉冨氏)

工場地帯では講堂などを作れないという規制があり、やや難航しているが、夢を夢で終わらせないためにも粘り強く交渉を続けている。

「今があるのは、いろんな人に育てていただいたおかげだ。今度は自分が後世にその思いを伝え、育てる番だ。そうやって世の中に恩返しできれば、これほど幸せなことはない」と吉冨氏は顔をほころばせた。