次世代のディスプレイや照明用に期待されている有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL)で新しい成果が生まれた。多層構造を持つ低分子塗布型白色有機ELを、山形大学大学院理工学研究科の城戸淳二(きど じゅんじ)教授、夫勇進(ぷ よんじん)准教授らが開発した。印刷技術で安価にLED並みの高効率白色有機ELパネルを製造するのに道を開く研究として注目される。12月18日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
印刷技術で柔軟な塗布型有機ELが製造できれば、コストを低減できる。発光効率の向上が実用化への課題のひとつだ。それには、異なる有機材料を積層して、電荷輸送や発光といった機能を各層に分離することが有効だが、塗布溶媒による下層の再溶解を防ぐ必要がある。これまで下層に使える材料は、耐溶媒性に優れた一部の高分子に限られ、高純度化や分子構造の制御が容易な低分子材料でも積層構造を形成する技術が待望されていた。
研究グループは17種類の低分子有機EL材料を厚さ30ナノメートル(ナノは10億分の1)の薄膜にしたときの溶解性を詳しく調べた。分子量の増加とともにアルコール類への溶解性が減少し、分子量800程度をしきい値に不溶化することを見いだした。アルコール(2-プロパノール)に不溶性を示した2種類の低分子を材料として、発光層を形成し、その上層に低分子電子輸送材料を2-プロパノールを用いて塗布成膜して、電子輸送層を形成した。
電子輸送層と発光層の積層構造薄膜の表面にイオンビームを照射して、薄膜の深さ方向の組成を測定した。発光層成分の再溶解が抑制された積層構造が形成されており、2つの層が混ざり合うことなく積層されていた。この電子輸送層と発光層の積層構造を用いて、塗布型白色有機EL素子を作製したところ、輝度100(cd m-2)時に世界最高水準の電力効率34(lm W-1)を示した。半球レンズを用いて、ガラス基板と空気界面で全反射していた光を取り出すと、蛍光灯やLED照明に匹敵する76(lm W-1)まで効率が上がった。
城戸淳二教授は「有機溶媒への溶解性を制御して、これまでは一部の高分子有機EL材料でのみ可能だった多層構造を低分子有機EL材料でも実現した。これで、塗布型有機EL素子の材料選択の自由度が大幅に広がり、印刷技術法で高効率有機ELパネルの開発が加速するだろう。今後、高輝度時の発光効率の低下抑制や長寿命化を進め、塗布型有機ELを早期に実用したい」と話している。