国立がん研究センター(国立がん研)は12月16日、軟骨肉腫の全ゲノム解読を行い、新たなゲノム異常(ドライバー遺伝子)を同定したと発表した。

同研究は、同センター研究所がんゲノミクス研究分野長の柴田龍弘氏によるもので、ゲノム専門誌「Genome Research」にて論文が発表された。

軟骨肉腫は中高年の四肢、骨盤に好発する悪性骨腫瘍。これまで、IDH1遺伝子変異が高頻度に見られることが報告されているが、希少疾患であるため体系的な全ゲノム解読ができず、それ以外のゲノム異常がどのように腫瘍発生に関係しているかはわかっていなかった。また、発生頻度が低いため、臨床開発が進まず、難治性にもかかわらず標準治療の確立や他の固形がんのようにゲノム異常を標的とした治療の検討が遅れているのが現状だ。

今回の研究では、10例の軟骨肉腫凍結検体ならびに同一患者の正常リンパ球よりDNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いて全ゲノム解析および全トランスクリプトーム解読を行い、体細胞ゲノムの包括的な同定を行った。さらに47症例を追加し検証実験を実施した。

その結果、約20%の症例で軟骨細胞の分化に重要な働きをしているCOL2A1遺伝子に高頻度なゲノム異常を同定した。トランスクリプトーム解読との統合解析の結果、軟骨並びに骨の分化に関係するアクチビン受容体を含む融合遺伝子を発見した。アクチビン受容体はキナーゼ活性を有するため、治療標的の可能性がある。

今回同定された軟骨肉腫におけるドライバー遺伝子

さらに、全ゲノム解読データを用いた情報解析を行うことで、類似した突然変異パターンを持つがんを探索したところ、前立腺がんと非常に類似していることがわかった。いずれも高齢者の男性に多いことから、何らかの共通要因が腫瘍発生に関係していることが示唆された。

軟骨肉腫における体細胞変異の分布と他の固形がんとの比較

今回の研究成果について同センターは「前立腺がんとの遺伝子異常の相似性より推測されるその発生原因に関する研究、新たに発見された遺伝子異常をターゲットとする新規治療法の開発など、希少がんである軟骨肉腫の基礎・臨床研究において大きなインパクトを有すると考えられる」とコメントしている。