容量や速度、インタフェースのみでストレージを語るのは、もはや時代遅れかもしれない。ストレージ業界においても特徴的な製品を世に出すコアマイクロシステムズの代表取締役 高橋晶三氏は、各業界・各分野・各用途に合わせたストレージを提供することが重要だと述べる。同社はクラウディアンの強力なパートナーであり、オブジェクトストレージの導入を容易にする「Cloudian HyperStoreアプライアンス」の開発・販売にあたって、豊富な経験に裏付けされたアドバイスを授ける存在でもある。両社は、どのような戦略をもってストレージ業界に潮流を起こすつもりなのだろうか。
今後のストレージは“メリハリ”が重要
── コアマイクロシステムズのストレージについて教えてください
高橋氏 もともとは、ハードディスクや光磁気ディスクの評価や検査を行う装置を扱っていました。その後、ストレージシステム業界に参入し、RAIDシステムの自社開発を始めたのは1998年のことです。正直に言えば、リソースの問題もあって、私が考えていたストレージ製品は、なかなか開発することができませんでした。
独自性の高い製品を開発できるようになったのは、それからしばらく経ってからのことです。例えば、最近話題になっており、当社の主力製品でもあるSSDストレージ装置の自社開発を開始したのは2003年です。
2005年には、今で言う「ソフトウェアディファインド型」の構造を採用した、仮想化ストレージの開発に着手しました。つまり、汎用的なサーバを高速なストレージとして活用できるソフトウェアです。現在販売している製品は、当初から数えて三代目の技術に当たります。
当初はSSDストレージもニッチな製品でしたので、高速かつ大容量のストレージを提供するため、米国ベンダーと提携してZFS系ストレージを開発しました。
そして、2011年ごろからクラウディアンと提携し、3番目の主力製品となる広域分散型のオブジェクトストレージ製品の開発を開始しました。エンタープライズのIT環境に合わせて簡単にオブジェクトストレージを利用できるよう、フロントエンドとなるゲートウェイやアダプターも同時に開発し、統合ストレージ製品として展開しています。
── 特徴的な製品を提供されていますね
高橋氏 私たちは、できるだけ“トンガッた”ものを提供したいという思いで開発を行っています。マーケットは小さくとも、認知されやすいものです。
例えば、今でこそストレージのQoS技術は当たり前になってきていますが、私は7~8年ほど前から必要性を提唱してきました。つまり、アプリケーションの特性に合わせたストレージが必要であると、当初から考えていたのです。一部の業界を除いては、容量が大きくインタフェースやプロトコルが適合すればよいと考える傾向があるようですが、決してそのようなことはありません。
すべてを網羅できるオールマイティなストレージなど、この世には存在しません。例えば、レイテンシーとアベイラビリティを同時に追求することはできないのです。
私は、ストレージ製品に“メリハリ”を付けるべきだと考えています。それにより、各業界やアプリケーションに合わせて、効率がよく価格も最適化されたストレージを提供できると考えています。
本橋氏 オブジェクトストレージに限っても、同じことが言えます。ある業界では、非常に高速なオブジェクトストレージを求め、またある業界では、性能よりも安価で大容量なオブジェクトストレージを求めます。
クラウディアンがオブジェクトストレージを“ソフトウェア”として提供しているのは、ハードウェアの性能を選び、使い分けることで“メリハリ”が付き、各業界に対応した製品を投入できるためです。 しかし、私たちにはハードウェアの経験とノウハウが不足していました。そこで、高橋氏に協力を仰ぎ、さまざまな知識を提供していただいています。コアマイクロシステムズは、私たちにとって先生のようなものです。
私たちのこれからのチャレンジは、どの業種にどのような製品を提供していくか、どのようなストレージがマッチするのかという点にあります。
高橋氏 今や、サーバの力を使えば何でもできるという時代になりました。私たちが注力すべきも、ソフトウェアだと確信しています。
オブジェクトストレージは広域分散型であることが最大のポイント
── オブジェクトストレージの注目ポイントは
高橋氏 オブジェクトストレージは、ブロックストレージ、ファイルストレージに次ぐ第三世代の技術と言えます。クラウディアンのように、オブジェクトI/Oに特化した製品もあれば、ブロックI/OやファイルI/Oを取り込んだ製品もあります。コアマイクロシステムズにおいても、こうしたユニファイド型のストレージ製品は計画段階にあります。
世の中には、500種類ほどのファイル形式があると言われています。構造もサイズも異なる非定型のデータが大多数を占めるようになり、これを効率よく保存するためにオブジェクト指向のデータ管理技術が登場しました。ファイルストレージでは限界があったためです。
もちろん、世の中には高度な並列処理で高速かつ大容量を実現する分散ファイルシステムが存在します。しかしそれは、特殊な学術用途などに用いる高価なもので、一般企業に適したものではありません。
オブジェクトストレージが最大の価値を生むのは、上位層から共通インフラとして用いる広域なエンドポイントにおける活用だと考えています。トランザクションやスループットは求めず、確実性と大容量性を重視する部分です。
本橋氏 複数のデータセンターに分散したり、地域冗長を図ったりする用途ですね。エンタープライズにおいては、複数のプライマリストレージから共有するセカンダリストレージにも適しています。
高橋氏 オブジェクトストレージは巨大な地下貯水槽のようなもので、地上にあるさまざまなアプリケーションやプライマリストレージから管が伸びているという姿が想像できますね。管の先端には、さまざまなフィルターが付けられており、好きなように味付けして“飲む”ことができます。
企業にとって、データを持つことは勝利につながります。巨大なクラウドベンダーがパブリッククラウドサービスを提供するのも、膨大なデータを預かることで、加工や分析、配信といったさまざまなサービスを提供できるようになるためです。一般企業においても同様で、社内の膨大なデータを蓄積するところから、競争力を付けることが可能になるのです。
本橋氏 従来のエンドポイントストレージと言えばテープでしたが、使いたい時にすぐ活用することは困難でした。そうした膨大なデータをオンラインで使えるようにするのが、オブジェクトストレージと言えるでしょう。
高橋氏 オブジェクトストレージは、安価で大容量という面に目が向きがちですが、もしこれが閉じたシステムで、用途が限られるのだとすれば価値は半減します。オブジェクトストレージの持つ「広域性」「分散性」こそが、最も注目すべきポイントなのです。
コアマイクロシステムズはCloudianパートナーを繋ぐ“くさび役”
── コアマイクロシステムズとクラウディアンは、どのような協業体制を敷いているのでしょうか
本橋氏 当社が2014年9月に発表した「Cloudian HyperStore Readyプログラム」は、ハードウェアパートナーのみならず、アプリケーションやサービス、周辺機器等を扱うベンダーやインテグレーターとのパートナーシップを強化するものです。
コアマイクロシステムズさまを含めたハードウェアパートナーは、自社のハードウェアにCloudianをプリインストールし、“認定アプライアンス”としてエンドユーザーへ提供します。また、アプリケーション/サービス/周辺機器等のパートナーは、独自の製品やサービスと組み合わせて、ソリューションパッケージとして販売することも予定しています。
ユーザーにとっての最大のポイントは、すでに述べたように、さまざまな業種や用途に合わせたCloudianソリューションを入手できるところにあります。そもそも、インターネットサービスにとっては使い慣れた「S3互換のAPI」でも、一般ユーザーにとってはハードルが高い場合もあります。パートナー各社のゲートウェイやサービスを組み合わせることで、容易に導入・活用できるCloudianへと生まれ変わるのです。
コアマイクロシステムズとの協業において特徴的なのは、他のパートナーに対してもソリューションを提供していただいている点にあります。
高橋氏 再販パートナーが、顧客にCloudianやCloudianアプライアンスを提案しても、そのままでは適用しにくいケースがあります。そこで当社が、どのようなハードウェアを選ぶべきか、どうすれば最適なシステムが構築できるかといったノウハウを提供し、間接的にCloudianの導入を支援するのです。
また、フロントエンドソフトウェアなどを開発されているテクノロジー・パートナーに対しては、そのアプリケーションにCloudian側をどう最適化すべきかといった技術支援を行います。
本橋氏 Cloudian自体は、特別な業界やニーズへの対応を目指した製品ではありません。つまり、フラットな“ストレージインフラ”です。だからこそ、逆に各パートナーはCloudianを使うことで各業界・分野に特化したソリューションを作ることができるのです。
コアマイクロシステムズには、Cloudianを最適な形で届けるためのノウハウと知恵を授けていただくと同時に、当社と他のパートナー、あるいはパートナーどうしを繋ぐ“くさび役”を担っていただいています。このようなパートナーどうしが協力しあうエコシステムが大きく育つことこそ、私たちの目指すところです。
高橋氏 クラウディアンは、私の考えや提案に賛同すればすぐに吸収し、場合によっては製品に反映してくださいます。そうした俊敏性は、ぜひ学ぶべきところだと感じています。目に見える身近なところで開発している親近感も相まって、互いに成長していける貴重なパートナーだと感じています。