東北大学は12月11日、英国ヨーク大学と共同で、第一原理計算による構造探索と世界最先端の超高分解能走査透過型電子顕微鏡を駆使し、磁性材料である四酸化三鉄(Fe3O4)(黒錆)中の面状欠陥構造を、原子レベルで決定することに成功したと発表した。

同成果は、同大 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の幾原雄一教授(東京大学 教授併任)、王中長准教授、陳春林助教らによるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。

研究グループは、結晶中の格子欠陥である転位や粒界・界面を対象にして、その構造解析や格子欠陥を制御した新機能材料の開発を試みてきた。そして、近年の原子分解能走査透過電子顕微鏡法の技術革新と第一原理による大規模な理論計算を併用することにより、今回の成果に至ったという。

理論的には、四酸化三鉄(Fe3O4)は常温で半金属・フェリ磁性を示すとされている。しかし、現実に観測される磁性は弱く、その主な原因として磁鉄鉱に存在する面状格子欠陥(逆位相境界:APB)の存在が考えられていた。また、これまでAPB近傍では特異な原子配置によって反強磁性を示し、物質全体としての磁性を大幅に下げる要因となっていると予測されていた。しかし、従来の理論モデルは定性的な予測にとどまり、APBの原子レベルの構造は不明だった。

今回、研究グループは、四酸化三鉄(Fe3O4)に存在するAPBの原子レベルの構造解析を試みた結果、APBでは反強磁性を発現していることを明らかにした。具体的には、界面を挟む2つのフェリ磁性領域が、APBで反強磁性を示すように接合されていることが示され、磁性体中に面状の反強磁性領域が欠陥として多数導入されていることが分かったという。

今後、今回の研究を起点に、このような欠陥構造の形成を制御することで、磁性材料の特性向上や格子欠陥構造を活用したスピントロニクスデバイスの設計、新機能材料の研究開発につながることが期待されるとコメントしている。

四酸化三鉄APBの電子顕微鏡像。走査透過型顕微鏡による高角度環状暗視野(HAADF-STEM)像([1-10]晶帯軸)