東京大学は12月9日、多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して優れた治療効果を示すライソシンという新しい抗生物質を、カイコを用いた研究で発見し、その作用機序を明らかにしたと発表した。
同成果は同大学大学院薬学系研究科の関水和久 教授、同 浜本洋 助教らとゲノム創薬研究所の共同研究によるもので、12月8日(現地時間)の「Nature Chemical Biology」オンライン版に掲載された。
多剤耐性菌の出現により、既存の治療薬が効かない感染症に対して、これまでにない作用機序で効果を示す治療薬の開発が求められている。しかし、開発には巨額の費用がかかることから、近年、新しい作用機序を有する抗生物質が市販されるケースが非常に限られている現状がある。
同研究グループは、そうした状況に対し、コストが安く、倫理的な問題がないカイコにさまざまな細菌を感染させ、抗生物質を評価できる実験手法を開発。この手法により新規抗生物質ライソシンを発見していた。
今回、ライソシンEの作用機序を調べた結果、これまでの抗生物質と異なり、多剤耐性の黄色ブドウ球菌を含む一部の細菌に対して、治療効果を発揮することがわかった。特に、黄色ブドウ球菌に対し1分という短時間で99.99%の菌を殺傷したという。同研究グループが解析したところ、ライソシンEはメナキノンという化合物と相互作用し、細胞膜を破壊していることが示唆された。
さらに、細菌感染したマウスにおいて治療効果を評価した場合でも優れた治療効果を示し、臓器毒性も見られなかった。これは、昆虫モデルで発見された化合物が、哺乳動物モデルでも治療効果を示したという意味で特筆すべき点だという。