神経難病の多発性硬化症で発見があった。抑制性サイトカインのインターロイキン-10(IL-10)が免疫細胞のプラズマブラストから分泌されて、多発性硬化症の悪化を抑制することを、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの松本真典(まつもと まさのり)助教、馬場義裕(ばば よしひろ)准教授、黒崎知博(くろさき ともひろ)教授らが解明した。多発性硬化症の新しい治療法の手がかりになる。理化学研究所、九州大学、オーストラリアのWalter and Eliza Hall医学研究所、メルボルン大学との共同研究で、12月4日付の米科学誌イミュニティのオンライン版に発表した。
多発性硬化症は脳や脊髄、視神経などに炎症が起こり、運動や感覚の障害などの神経症状を繰り返す自己免疫疾患である。患者は特に若い女性に多く、全国で約1万5000人と推定され、現在も増加傾向にある。その発症や再発の仕組みはよくわかっていないが、神経繊維をさやのように覆っている髄鞘(ずいしょう)を免疫細胞が破壊して引き起こされると考えられている。
これまでIL-10を産生するB細胞がマウスの脳脊髄炎を抑制することが報告されていたが、どのように発症を抑制するかは謎であった。研究グループは、多発性硬化症の実験モデルとなるマウスの免疫機構を、遺伝子操作などの技術を駆使して、さまざまな実験で多面的に解析した。その結果、B細胞から分化誘導したプラズマブラストが、免疫反応を弱めるIL-10を分泌していることを見つけた。
さらに、このIL-10が免疫反応を誘導する樹状細胞の機能を阻害して、脳脊髄炎の悪化を抑制していることを突き止めた。次に、試験管内でヒトのB細胞をプラズマブラストに分化誘導させたところ、特異的にIL-10を産生したことから、ヒトでも、プラズマブラストがIL-10を産生する免疫細胞として、多発性硬化症の抑制に重要な役割を果たしている可能性を示した。
研究グループの松本真典助教は「プラズマブラストが分泌するIL-10は樹状細胞の機能を阻害して、脳脊髄炎を抑制していることがわかった。免疫系が誤って自己の組織を攻撃してしまう多発性硬化症の免疫反応を大もとで止めることが期待されるので、重要な意味がある。IL-10を産生するプラズマブラストの分化を人為的に誘導できれば、新しい治療法につながる」と話している。