HDDに対し、高速なアクセス、静音、省電力とさまざまな長所を持つSSD(Solid State Drive)が一般に使われるようになったが、常に先を見据えて新たな技術の開発を続けるのがテクノロジー業界だ。当然、新しいストレージ技術の開発も進んでいる。その1つがIBMが開発中の新メモリ技術「Racetrack」だ。

米IBMの「Racetrack」のWebページ

このRacetrackについて、MakeTechEasierが分析しているので(記事名は「SSDとフラッシュメモリの限界をさらに引き延ばすことができるのか?(原題:Can We Push Past The Limits of SSDs and Flash Memory?)」、そのポイントを紹介しよう。

RacetrackはIBMのアルマデン研究所で開発が進んでいる新しいメモリ技術だ。IBMが最初にプロジェクトを明らかにしたのは2008年のことで、SSDが搭載しているフラッシュメモリの100倍の保存できるという記憶容量、HDDよりも100万倍高速というアクセス速度を特徴とする。これに加え、コスト面でもSSDやHDDに勝っているという。ストレージ媒体の価格は安価で、IBMは「われわれが現在手にしているコンピュータとそう変わらないと主張している」とのことだ。

「もし、そのとおりであれば、標準的な3.5インチのドライブに100テラバイトものデータを保存できるドライブが実現し、1956年にIBMが発表した「IBM 350」以来のパラダイムシフトになる」と記事は記している。

では、Racetrackとはどのような仕組みなのだろうか? Racetrackを日本語にすると「競技場」となるが、競技場のような形で磁気ナノワイヤをシリコン上に配列する。磁気ナノワイヤは人間の髪の毛の1000分の1の細さで、データを格納するために磁区を用いる。スピン工学を応用し、スピン流が磁区を直接制御して移動させ、原子レベルで停止させる。これにより、ナノ秒以下でのデータの書き込みと読み出しが可能という。

だが、Racetrackメモリがまだ製品化されていないことから、実用化は簡単にいかないのではとも推測されている。アルマデン研究所ではコンセプトとして動作するRacetrackメモリを披露したが、このデモはRacetrackがコンシューマー向けの製品として実現可能であることを示すレベルとは言えない、というのだ。IBMの主張ほど安価になるかどうかもわからない。

速度についても、早期段階ではかなり遅かったという。ハンブルグ大学のGuido Meyer教授がドライブ内の水晶に欠点があることを発見したことも報告されている。Meyer教授は素材の変更や媒体の形状を変更することで問題を解決できると述べているというが、IBMがどのように対応しているのかはわからないとのことだ。

結論として、Racetrackが近い将来現実のものになるのかどうか、速度の面でSDDをしのぐ製品になるのかなど不明な点は多いとしながらも、研究が進むことに期待を寄せている。耐久性は、SSDよりも優れたものになることは間違いないだろうとのことだ。