ハーレーダビッドソンと言えば、誰もが知る大型バイクの有名ブランドだ。しかし1990年では、750cc超の排気量を持つバイクの国内シェアでは14%にも満たず、カワサキ、ヤマハに大きく溝を開けられていた。その窮地を救ったのが、現在、アンクル・アウル コンサルティングの代表を勤める奥井 俊史氏だ。1980年代にはトヨタ自動車の輸出・販売業務で大きな実績を上げ、1990年にハーレーダビッドソンジャパン(以下HDJ)の代表取締役に就任。以来、業務の抜本的見直し・構築を行い、在任最終年の2008年にはシェアを36.3%※にまで押し上げた人物だ。
12月2日に開催される「実践型ビジネスプロセス改革セミナー~キーパーソンが語る、業務改善の手法とIT活用~」では、奥井氏本人から、実体験に基づく業務・組織改革の手法が語られる予定だ。本稿ではその一部をご紹介しよう。
※数値は排気量751cc以上のバイクの国内シェア。
出典:アンクル・アウル コンサルティング
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初期の改革には、経営者のトップダウンが有効
アンクル・アウル コンサルティング 代表 奥井俊史氏(元ハーレーダビッドソンジャパン社長) |
奥井氏は1990年、ヘッドハンティングを仕事にしていた知人から勧められるままにHDJの代表に就任した。氏はその時のことを「ハーレーは昔から知っているブランドだったが、就任してみてびっくりした、というのが率直な感想」と振り返る。当時、HDJの社員は17人。日本国内でのマーケティング&セールスを行う目的で設立されたはずの同社だったが、マーケティングを遂行できるだけの人材はなく、セールス担当の報告業務も曖昧、販売店に対する改善フィードバックもできておらず、「それまであったものは使い物にならなかった」(奥井氏)という。
本社から奥井氏に課されたミッションは、ハーレージャパンを独り立ちさせること、日本での販売を増やすことの二つ。その達成のために、氏の経営改革が始まるわけだが、実質は一からの構築に等しかったという。この先3年、5年の間にまず何をやらなければならないか、どうやったら成果を上げられるか、誰が何を担当するかなどを、たった1人で計画書にまとめあげ、全社員に渡すところからスタートした。完全なるトップダウンだ。
「組織能力が低いうちは、トップダウンが必要です。自社の能力を判断し、それを高めるために変革を行っていく…この時点では誰かにアドバイスを求めるより、経営者が自己判断で計画を立てるべきです」(奥井氏)
年間の新規登録台数が、8年で2倍以上に!
経営層が求める改革スピードが速すぎると、現場からの反発を買うこともある。奥井氏もその洗礼を受け、スピードを緩めざるを得なくなったことがあるという。しかし計画書にまとめた基本方針の内容を変えることはなかった。計画に沿いながら地道にPDCAを繰り返し、3年で社内体制を、さらに5年を費やして販売店網を整えた頃には、ハーレーの年間新規登録台数は1990年の2倍以上になっていた。明確なビジョンのもと、企業の組織能力を高めれば、高額なハーレーでも安価な国産バイクに太刀打ちできることが証明されたのだ。
「私のやってきたことは、後付けで見れば業務改革と呼べるものになっているわけですが、現実はもっと切実で、どうやったら最初のひどい状態を改善することができるか、どうやったらきちんと実績を残せるか、そして自分の地位を保てるか、またその結果としてハーレーに携わる関係者が豊かになれるか、ということを考えて取り組んでいました」(奥井氏)
奥井氏在任中のハーレーの市場シェア |
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講演では、組織能力が高まった後、トップダウンに変わって採用した目標設定の方法や、新規顧客の掘り起こしに功を奏したCRP手法、業務を遂行していく中でITをどう利用していくべきかなど、HDJで実践してきた経営・業務手法が語られる予定だ。
自動車業界・バイク業界に限らず、組織を引っ張ってゆく立場にある人にとって、奥井氏の講演は理論的な意味でも実践的な意味でも、有益なものとなるに違いない。