マイクロ流体工学を応用して、さまざまな病原体ウイルスを一網打尽に検出・定量する技術を北海道大学大学院工学院の石井聡(いしい さとし)助教らが開発した。この技術で、河川水に含まれるノロウイルスやロタウイルスなどの病原ウイルスを定量的に検出することに成功した。複数の病原体について高精度で高感度の定量値がわかるため、水や食品の安全性評価や医療診断への応用が期待される。国立極地研究所との共同研究で、11月14日付の米微生物学会誌Applied and Environmental Microbiologyオンライン版に発表した。
環境中にはさまざまな種類の病原性ウイルスがいる。検出するには、ウイルスの遺伝子を増幅して解析するPCR法が最も有効だが、1回に1種類のウイルスしか調べられないため、時間も労力もかかりすぎる。この難問を解決しようと、研究グループは数ナノリットル(ナノは10億分の1)の微細空間で平行して同時一斉に検出・定量する新技術を考案した。
新技術は、複数の連なったナノリットルサイズの微細空間に検体の水などを流し込んで、それぞれの微細空間ごとに特定のウイルス検出用のPCR反応液と混ぜて、各ウイルスの濃度を測定する仕組みだ。マイクロ流体工学を基に、検体やPCR反応液が順調に流れるように工夫された微細解析装置を用いた。この装置で、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アイチウイルス、エンテロウイルス、アストロウイルス、A型とE型肝炎ウイルスを同時一斉に検出できることを確かめた。大規模な食中毒を時々起こす腸管出血性大腸菌のO157などの細菌も検出が可能だった。
開発した石井聡さんは「マイクロ流体の装置を病原ウイルス検出に応用したのが新しい。遺伝子が既知のウイルスなら、対象の種類を増やし、自動化も可能だ。コスト面の課題はあるが、この技術を使えば、水や食品などにどのような病原体がどれぐらいの量で混入しているのか、簡単に調べることができ、水や食品の衛生管理に役立つ。医療機関で胃腸炎を引き起こしている病原体を速く突き止めるにも有効だろう」と話している。