NECは11月10日、工業製品や部品の表面に自然発生する微細な紋様(物体指紋)をもとに、製品の個体識別を実現する「物体指紋認証技術」を開発したと発表した。

物体指紋とは、金属製品などの加工物の表面に生じる凹凸の紋様のことで、金型や鋳型別にその特徴が異なっているほか、そこから生成された工業製品も微妙にほかと異なっており、あたかも人の指紋のように他と一致する確率が低いことから付けられた名称。具体的には表面の奥行きを中心に特徴を抽出し、個体識別を可能にしており、ネジやボルトなどのほか、コンデンサや半導体パッケージ、革製品、コネクタ、工具類など表面にある程度のざらつき(凹凸)が存在しているものであればほぼ存在している紋様だという。

世界的に工業製品の模造品被害は拡大を続けており、ネジやボルトといった安価な工業製品でも対応が求められているが、識別タグなどを付けるといった作業はコスト・工数的に見合わないという課題があった。物体指紋は金属の表面の凹凸などから個体識別が可能であり、タグなどを付けるコストなどを不要にしつつ、真贋判定を行うことを可能にする技術となる

今回、開発された技術はそのような物体指紋を生産時に撮影しデータベース化、そうした部品を組み込んだ製品を製造するラインなどでスマートフォンのような一般的なカメラを用いて部品を撮影し、データを比較参照することで、真贋の判定やトレーサビリティを実現しようというもの。

人の眼ではどれも同じにみえるネジの頭部だが、拡大していくとその表面に微細な凹凸が形成されており、カメラでそれを識別することで照合を行う

独自の特徴集出方式を採用しており、1本1本の区別のためには個別にデータベースに登録する必要があるが、例えばどの金型で作ったのか、といったことさえわかれば良いのであれば、10本程度のサンプルの登録でその金型独特の特徴を抽出し、その金型製であることを証明することが可能になるという。

実際に同社が行ったボルト1000本を用いた認証実験では、認証スピードは約1秒ながら、認証率100%を達成したとのことで、「もし物体指紋が同じだという確率は100万分の1以下程度」とするほか、金属のほか、プラスチックといった表面にある程度のざらつきが生じているものなら適用可能であることも確認したという。

応用例の1つとして考えられるネジの真贋判定。1本1本データベース化しておくことで、個体認証が可能になる

同社では「単なる凹凸を見ているのではなく、奥行き感といった3次元的に見ているため、金属の鋳抜きでも識別が可能。もし、コピー品を作ろうと思っても、そこまでは簡単に真似できることはないと考えられる」としており、高い汎用性かつ低コスト性、そしてセキュア性を背景にさまざまな分野での適用を目指すとしている。すでに先行して一部のパートナー企業と実証実験を開始しており、今後もパートナー企業の数を増やし、実験の規模や用途の拡大を進め、2015年度上期には真贋判定を中心にビジネス化を果たしたいとしている。

物体指紋の適用例の1つ。ブランドバッグの真贋判定。今回はバッグのファスナーなどの金属部分を用いたが、革部分をそのままデータベース化しても判定は可能だという(ただし経年劣化によってどう変化するか、といったところはまだ研究段階だという)

こちらも真贋判定の例の1つ。ミシンのエンブレムを物体指紋技術で認識させ、データベースに登録されているか否かで真贋を判定しようというもの

今回のデモで用いられた3Dプリンタで作られたアタッチメント。主にカメラのブレを抑え、位置決めをしやすくするためのもの。カメラ自体は、現状、市販されているスマホの性能で今回のデモ程度の認識は十分だという