関節リウマチの進行を抑えるシグナルの受容体を、東京大学大学院農学生命科学研究科の村田幸久(むらた たかひさ)准教授と大学院生の壷阪義記(つぼさか よしき)さんらがマウスの実験で初めて見つけた。関節リウマチの新しい治療法の開発につながる発見として注目される。10月31日の米科学誌Journal of Immunologyオンライン版に発表した。
関節リウマチは関節内への炎症細胞の浸潤、滑膜細胞の増殖、骨軟骨の破壊を示す自己免疫疾患で、日本に70-80万人の患者がいると推定されている。患者は中高年の女性に多い。患者の滑膜組織内では、特にマクロファージが多く存在して、症状の進行と持続に重要な働きをしているとみられている。また、発症と進行には、生理活性物質のプロスタグランジンD2(PGD2)の産生上昇が伴うことが患者で報告されている。しかし、PGD2が関節リウマチに対して与える影響はわかっていなかった。
研究グループは、足関節に炎症を起こす関節リウマチのモデルマウスで実験した。PGD2のシグナルを細胞膜で受け取るCRTH2受容体の遺伝子が欠損したマウスを作製したところ、正常マウスに比べて足の腫れなど関節リウマチの症状が悪化した。正常なマウスの骨髄をCRTH2欠損マウスに移植すると、関節炎が緩和し、逆にCRTH2欠損マウスの骨髄を正常マウスに移植すると、症状が悪化した。骨髄から分化する免疫細胞のCRHT2受容体の刺激が関節の炎症を抑えることを実証した。
さらにCRTH2の欠損は、炎症を起こした関節に浸潤するマクロファージの数を増加させることもわかった。CRTH2が欠損したマクロファージを正常マウスに移入すると、関節炎の症状が悪化した。加えて、CRTH2欠損のマウスでは、マクロファージの活性が正常なマウスのマクロファージに比べて高いことも確かめた。
村田幸久准教授は「この研究で、CRTH2を介した刺激がマクロファージの活性を抑えて炎症を抑制することを初めて示した。PGD2は関節リウマチを抑えるシグナルなので、新しい治療法の開発の手がかりになる。マウスの結果だが、このプロスタグランジンはリウマチ患者の関節でも産生量が増えていることが報告されているので、同じことがヒトでも起きているだろう。今後、CRTH2受容体がどのように細胞内に情報を伝達して、関節リウマチを抑制するか、その仕組みを解析したい」と話している。