解析ソリューションを中心としたものづくり企業の設計支援を行うサービスプロバイダのヴァイナスは10月9日、10日に東京・品川の東京カンファレンスセンターにて、プライベートカンファレンス「VINAS Users Conference 2014」を開催し、同社が取り扱う解析ソリューションなどの活用事例などの紹介を行った。同カンファレンスにおいて、自社をものづくり企業と表現する同社の代表取締役社長を務める藤川泰彦氏に、直接、同氏が目指すヴァイナスの未来の姿を聞く機会をいただいたのでそれをお届けしたい。

ソフトウェア企業ではなくものづくり企業

ヴァイナスというと、流体解析や構造解析ソフトを提供するベンダといったイメージが強いが、藤川氏は「ソフトウェアの企業というよりもものづくり企業」と自社を表現する。そもそも同社では、「1番最初に人がやらないことをやる会社」という方針を掲げている。つまり、同社が提供するサービスは、それまで誰もやってこなかったことを実現するためのもので、それをものづくりの分野から世界に向けて発信することを目指しているのだという。

プライベートカンファレンス「VINAS Users Conference 2014」の様子

ヴァイナスの代表取締役社長を務める藤川泰彦氏

そんな同社が中期的なテーマとして掲げているのが「クラウド・スタイル・エンジニアリング」だ。エンジニアリングの世界にシームレスなクラウド環境を提供することで、演算に使用するコンピュータが手元のPCなのかネットワーク先にあるHPCなのかを気にしないで済むようにしよう、というもので、自社サーバや複数のクラウドコンピュータにアクセスし、ジョブの実行管理やファイルを高速に転送できるゲートウェイ「CCNV(Cloud Computing NaVigation system)」と、それに関連した複数のソリューションの展開を目指している。

ITの分野を中心に「クラウドスタイル」といった考え方やソリューションは存在するが、それがエンジニア領域をカバーしていたか、というと、必ずしもそうではないというのが藤川氏の見方。だからこそ、その後ろにエンジニアリングを冠した「クラウド・スタイル・エンジニアリング」を提唱することとなった

このCCNV、クラウドコンピュータとして、さまざまなサーバに対応しており、FOCUSスパコン、Amazon-AWS、IBM SoftLayerなど(京も対応予定だという)から柔軟な選択が可能。また、CCNVに関連するソリューションとしては、すでにさまざまなコンテンツを表示する無料ビューワーとしてクラウドスタイル・コンテンツビューワー「CCNV Viewer」の提供が開始されており、近日中にバージョン1.5がリリースされる予定だ。

CCNVのイメージ。同ソリューションの活用により、クラウドコンピューティングを利用するうえで生じるさまざまな課題を気にしないで手軽にそのパフォーマンスを活用することができるようになるという

エンジニアリング向けサービスから通信回線サービスに事業範囲を拡大

さらに2015年には、これまでの解析ソリューションはエンジニア向けサービス(エンジニアリング)から、一歩踏み込んだ新たな領域でのサービス提供を開始する予定だ。「CCNV-LH」と呼ぶ、最大10Gbps帯域の高速専用回線をTOKAIコミュニケ-ションズと協力して提供しようというもので、藤川氏は「CAEソリューションベンダで、高速ネットワーク回線を販売している企業はほかにない。従来の感覚からいえば、回線の再販を行う業者、と見られるわけだが、アプリケーション側から見ると、アプリの付加価値として専用回線がついてくることになる。他社に迷惑をかけないように巨大データを送るアルゴリズムで制御して送信できる仕組みで、回線業者単体ではそこまでのサービスは提供していない」とし、その背景に、計算容量が膨大になり、その結果生じる巨大なデータをいかに早く手元に送信するか、というネットワークの課題が解析分野に存在していることを指摘。「我々はユーザーが求めるサービスを提供する。海外の解析ソリューションベンダの製品を国内に提供するというイメージが強いが、それはその分野における良い物を自社で作るより早いから。しかし、それでも世の中に存在しないものは自ら作る独自の基礎技術も長年培ってきており、そうして自らが作りだしたツールとパートナーのソリューションを掛け合わせることで、オリジナルの技術が生み出される。その結果の1つがCCNV」(同)とする。

2015年4月より本格的なサービス提供が予定されている高速専用回線モード「CCNV-LH」のイメージ。これにより、最大10Gbpsの高速ネットワークを用いてスパコンなどが演算した膨大な量の演算データなどをやりとりすることが可能となる

エンジニアリングビジネスから通信付加価値の提供へ。藤川氏は「エンジニアリング部門は、実はハイテク分野で最先端のことをやっている一方で、クラウドへの対応という意味では一番遅れている。しかし、開発の複雑性が増していく中、その解析にはより高い演算能力が求められるようになり、そうしたコンピューティングパワーを柔軟に活用する必要がある。しかし、社内での計算能力やストレージの容量は簡単に増強できない。その結果、社外の設備を活用する必要がある。だがそこには通信速度という壁が立ちはだかる。また、よく言われるのがサーバのスケジューラなどの『言語』がHPCごとに異なるということ」と指摘。いかにものづくり企業が俊敏性を持って、そうしたニーズに対応するための変化を伴えるかが課題であり、それを解決するものがCCNVというソリューションであるという。

クラウドを介したHPCではネットワーク越しに重要データのやり取りなどを行うこととなるため、セキュリティをどうするべきか、といった問題や、GPUコンピューティングなどの並列演算化をどうやるか、といった課題なども存在しており、そうした課題解決の手伝いを行うコンサルティングサービスなども提供するという

そのため、クラウドと高速通信ネットワークの提供に併せて、データの重み分けなどといった通信におけるセキュリティポリシーの整備に向けたコンサルティングサービスの提供も強化しており、「ユーザーに求められるサービスを既成概念にとらわれず開発し、スピード感を持って提供していく」(同)とのことで、「スピード」、「ユニーク」、「No1」をモットーとし、事業の長期的な発展に向けベストパートナーと組んで、ベストソリューションを今後も継続して提供していくほか、必要があれば新たな分野にも積極的に進出していき、ユーザーの利便性の向上を図っていくとした。

最後に藤川氏は、「まだまだニーズはたくさんある。困っている人が沢山いる。そうした人たちを助ける新たなソリューションを我々が提供することで、日本のものづくりの強化につなげていきたい」と、日本のものづくり産業に向けてメッセージを送ってくれた。