システム設計に圧し掛かる省電力化・小型化・低コスト化ニーズ

IoTやビッグデータ、クラウド、スマート化、システム設計を取り巻く環境は今、劇的に変貌を遂げようとしている。そんな激しい環境の変化は、組込機器や産業機器などさまざまなシステムの設計・開発現場にも変革への対応を迫ることとなり、中でも省電力化、小型化、そして低コスト化のさらなる圧力となっている。

従来、そうした機器を設計する場合、中心となるプロセッサやDSPを決定し、その周辺に必要となるメモリやインタフェース、クロックなどを配置して対応していた。しかし、それだと部品点数が多くなり、かつ基板サイズの縮小は難しく、各デバイスの評価にも時間がかかるという課題が存在していた。そうした課題を解決する手法の1つがFPGAの活用だ。

FPGAについてご存じない方に簡単に説明しておくと、プログラム次第で自分のニーズに応じた回路を組むことができる半導体で、例えばIOが沢山欲しいのにマイコンだとIOの数が限られてしまったり、数年で生産終了になってしまうといったことがあるが、FPGAは少なくとも15年の供給が保証されており、またIOなどの回路も演算素子が許す限りプログラムすることが可能といった特長がある非常に使い勝手の高いデバイスだ。

既報の通り、AlteraはTSMCの55nmエンベデッドフラッシュプロセス技術を採用した「MAX 10」FPGAの製品出荷をアナウンスした。これまで同社のMAXシリーズはCPLDと呼ぶ、小型ながら機能が限られた製品で、プロセッサの周辺に配置されインタフェースなどの機能を担うのが中心であった。しかしMAX 10はFPGAへと進化し、1チップでシステムを駆動させることができ、システムの中心に据えることが可能となったのだ。

1チップでシステム構築が可能なデバイス

プロセッサとしては、Alteraが提供するソフトコア「Nios II」(動作周波数150MHz)が利用可能なほか、その最大の特徴である2つのコンフィギュレーションメモリと最大512KBのユーザーフラッシュメモリを活用することで、外部メモリへのアクセスなしでNios IIをブートさせ、OSも稼働させることができる。また、MAX 10には電圧レギュレータが搭載され単一電源で動作可能なため、同社が提供しているEnpirionブランドのパワー・システムオンチップ (PowerSoC)DC-DCコンバータと組み合わせることで、より簡易にシステムを構築することが可能となる(例えば5Vの入力から、Enpirion+MAX 10という2チップ構成でシステムを駆動させることが可能)。このため、基板サイズをニーズに応じて小型化でき、スペースに制約がある機器においてその威力が発揮されることとなる。

MAX 10 FPGAの最大の特徴である2つのコンフィギュレーションメモリとソフトプロセッサ「Nios II」。特にコンフィギュレーションメモリは、活用次第ではさまざまなニーズに応えることが可能な技術だ。また、これまでMAXシリーズはFPGAに位置づけられなかったが、AlteraのSenior Director of Product Marketingを務めるPatric Dorsey氏によると、FPGA的なアーキテクチャ(Nios IIが搭載できるなど)を用いており、ローエンドのCycloneにするかといった議論もあったが、フラッシュプロセスを用いているCycloneとは異なる技術ベースの製品ということでMAX 10と決定されたとしている

また、チップ数が少ないためにシステムのハードとしての信頼性も向上するほか、2つのコンフィギュレーションメモリの両方に同じ情報を書き込んでおき、メインのメモリに書き込みエラーが発生するなどの異常が生じた場合、即座にサブのメモリをバックアップとして活用するといった冗長性を持たせることで、ソフトとしての冗長性を持たせる、といったことも可能だ。

さらに、外部チップを介さないため、レイテンシが早く、高速処理を実現することも可能だ。

加えて、外部メモリを活用する場合、DDR3メモリを活用できるため、安価かつ容易にメモリを入手することができるほか、同社が提供する開発ソフト「Quartus II」のソフトIPとしてメモリコントローラも提供されているため、高速なメモリの取り扱いに慣れていなくても、苦労せずに取り回すことが可能となっている。

「産業機器」「オートモーティブ」「通信」をはじめ、幅広い市場のニーズに対応

MAX 10は幅広いアプリケーションで使えるデバイス。例えば、シンプルなモーターコントロールなどを、スペースに制約がある場所で活用してもらう用途など、低コストで省スペースシステムを作成する必要がある分野への適用をまず第一のターゲットとしている。一例として、「産業機器」「オートモーティブ(自動車)」「通信/コンピューティング」の3分野を同社では例に挙げている。

産業分野に向けたMAX 10の適用領域の例

自動車分野に向けたMAX 10の適用領域の例

通信/コンピュータ分野に向けたMAX 10の適用領域の例

こうしたニーズに対応するためには単にチップだけを提供すれば良いわけではない、ということで、すでに同社はドキュメントや開発ボードなどの提供も開始している。特に開発ボードとしては、49.95ドルでEnpirionチップとMAX 10 FPGAを搭載し、Arduinoシールドを接続できる評価キットが提供されるほか、30ドルでUSBで接続するタイプの評価ボードがArrow社から提供されたり、1チップモーターコントロールボードとしてDDR3メモリも搭載したものなども開発を進めているとする。

49.95ドルの開発ボード。Arduinoシールドを搭載することができる。右は実際に搭載した際の様子

また、その他のパートナー企業もすでに開発ボードの提供に向けて動き出しており、日本ではマクニカや近藤電子などから複数種類が提供されることが決定しているという。

チップだけではなく、開発ボードやドキュメント、デザインサンプルのほか、ソフトウェアのサポートやトレーニングも提供が可能な体制がすでに整っている

また、同社のSenior Director of Product MarketingであるPatric Dorsey氏は、「MAX 10はシンプルな1チップ製品であり、CPLDを越える性能を実現しつつ、システムに対し低価格、基板スペースの削減、高信頼性などを得ることができる。また、ほかのFPGA製品と同じく、長期提供を保証しており、製品のライフサイクルが長い産業機器や自動車分野のニーズにも対応が可能」としており、そうしたCPLDの簡素性とFPGAのパフォーマンスを併せ持ちながら、シンプルな1チップデバイスとして活用できることを提案していくことで、カスタマの適切なソリューションの実現を支援していきたいとしている。

MAX 10の目指す方向性を語ってくれたAlteraのSenior Director of Product MarketingであるPatric Dorsey氏

協力:日本アルテラ株式会社
・「MAX 10」FPGA 製品概要