光学顕微鏡の多様な進化が最近目覚しい。そこにまた新しい技術が登場した。光源としてこれまでとは特性の違う工業用の高パルスエネルギー赤外線レーザーを用いることで、顕微鏡の視野を大幅に広げて生体を高速で3次元観察するのに、愛媛大学大学院医学系研究科の大嶋佑介(おおしま ゆうすけ)助教と基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の丸山篤史(まるやま あつし)研究員らが成功した。この新しい方法で、メダカの稚魚全体のような、より大きな生きた試料の撮影に使えることを実証した。発生生物学や医学研究の新しいツールになりそうだ。米オンライン科学誌Biomedical Optics Express10月1日号に発表した。
レーザー顕微鏡は、細胞や組織の観察、生体分子の機能解析のために生物学や医学の分野で広く使われている。特に発生の研究のためには生体深部の細胞や分子の動きを観察する必要があり、レーザービームを平面状に成型して側面から試料に照射する光シート顕微鏡がここ数年、使われ始めた。この光シート顕微鏡に2光子顕微鏡を組み合わせた方法が最も進んだ技術だが、光エネルギー密度が不足するために観察できる視野は狭くなってしまい、最大でも0.25mm以下しか観察できなかった。
研究グループは、材料加工用に開発された工業用のレーザーを顕微鏡の光源として使った。このレーザーは従来の超短パルス赤外線レーザーに比べ、パルスの繰り返し周波数が低く、その代わり1パルスあたりのエネルギー密度が高いという特徴がある。金属加工にも使われるような高いエネルギーのレーザー照射は生体へのダメージが懸念されるが、ダメージを減らせるようにレンズなどを工夫した。これにより、1mm程度の広い視野の観察が可能になった。この新しい顕微鏡で、メダカを生かしたまま観察して、心臓が拍動する様子を0.05秒ごとに高速撮影できることも実証した。
開発した大嶋佑介さんは「顕微鏡は種類によって、得意、不得意があるが、われわれの新しい生体深部高速ライブイメージングシステムでは、広い視野を鮮明に深いところまで立体的に見える。従来にないコンセプトを達成しており、光学顕微鏡の可能性をさらに拡大するものとなるだろう」と話している。
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