約2億5200万年前の古生代末に生物は大量絶滅した。この史上最大の絶滅の後に、海の生態系が、これまで考えられていたよりも速やかに回復していた証拠を、ドイツ・ボン大学の中島保寿(なかじま やすひさ)博士研究員と東京大学大学院理学系研究科大学院生の泉賢太郎(いずみ けんたろう)さんが見つけた。

写真. 中生代初期の大沢層から発見されたさまざまな大きさの糞の化石と、そのうちの一つの顕微鏡写真(右上)。脊椎動物の骨が含まれている。(提供:東京大学)

宮城県南三陸町の中生代初期の大沢層から脊椎動物の糞(ふん)化石を採集して、この中から小さな骨を検出し、当時の海洋の食物連鎖を示した。中生代初期に海洋動物が捕食した行動の記録としては国内初めての発見で、生物大量絶滅後の生態系の復元力を見る重要な成果として注目される。9月27日付の国際科学誌「Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology」オンライン版に発表した。

図. 古生代末の大量絶滅から500万年間、中生代初期の海の生態系について糞化石から新たにわかったこと。脊椎動物同士が被食-捕食関係にあり、食物連鎖の構造は複雑化していた。(提供:東京大学)

古生代末には、海の生物のうち95%の種が絶滅し、生物間の複雑な食物連鎖が一挙に失われた。恐竜が姿を消した中生代末の絶滅の規模を上回る空前絶後の大量絶滅だった。この大量絶滅の後に海の生態系が完全に回復するまで500万年以上を要したと考えられていた。中島保寿さんが東京大学の大学院生だった2007年、南三陸町の海岸にある大沢層で、60点以上の糞化石を採集した。大沢層は中生代初期の約2億5200万年前~約2億4700万年前に深さ数百mの海底で堆積した地層で、ウタツ魚竜が出た地層として知られている。

糞化石は骨の化石よりも発見しやすく、何を食べていたかの情報をわかる利点がある。大沢層で見つかった糞化石は大きさが数mmから7cmまであり、さまざまな大きさの動物が排泄したものだった。その成分はリン酸塩鉱物からなり、海底の泥ごと餌を食べる底生動物の糞とは区別できた。糞化石の形状も紡錘形で、軟体動物のリボン状の糞とは明確に異なり、海を遊泳する脊椎動物の糞であることがわかった。

さらに糞化石を薄片にして、透過式偏光顕微鏡で観察したところ、一部に脊椎動物の0.5mmほどの小さな骨が含まれていることを確かめた。これらの分析をまとめて「中生代初期の海には、無脊椎動物と大小の脊椎動物が共存し、脊椎動物の一部は小魚などを捕食していた」と結論づけた。この研究は、古生代末の大量絶滅から500万年以内に複雑な食物連鎖が回復していたことを示し、生態系回復の速度について新見解をもたらした。

糞化石の研究に熱中する泉賢太郎さんは「糞化石は地質時代の生態系の復元に役立つ。生物の大量絶滅からの回復過程に光を当てた重要な発見だと思う」と話し、中島保寿さんは「南三陸町の大沢層は、中生代初期の生態系の変化をたどる貴重な化石がまだ残っている可能性がある。現地は2011年の東日本大震災で大津波に遭い、1mほど沈降したが、大沢層が海岸沿いにまだ広がっており、地元と協力して積極的に発掘調査していく価値が国際的にもある」と提言している。