暗い深海の熱水噴出孔周辺には豊かな生物群が存在するが、どのように栄養を確保しているか、謎が多い。その解明が一歩進んだ。沖縄トラフの深さ約1000mの熱水噴出孔の周囲一面に生息するゴエモンコシオリエビ(体長約5cm)が、自身の体毛に付着する化学合成菌を食べていることを、海洋研究開発機構の深海・地殻内生物圏研究分野の和辻智郎(わつじ ともお)研究員らが初めて突き止めた。深海熱水噴出孔の周りに生息する動物の栄養源や生態の研究を進める成果といえる。10月14日付の英科学誌 The ISME Journalオンライン版に発表した。

写真. ゴエモンコシオリエビ。深海の熱水噴出孔域に生息する。ヤドカリに近い種で、体表に多数の毛が生えている。体長は5cm程度。(提供:海洋研究開発機構)

光の届かない深海は微生物と動物が共生する世界で、海洋の95%を占めている。世界の深海熱水噴出域で化学合成菌を体に付着させている深海動物が数多く発見されてきた。しかし、深海動物の生け捕りが難しいため、実験的に調べることができず、体に付いた外部細菌が共生する宿主動物の栄養源になっていることの証明はできていなかった。

図. ゴエモンコシオリエビの各組織(毛、筋肉、腸)への炭素の放射性同位元素の取り込み量(提供:海洋研究開発機構)

研究グループはまず、捕獲した際に深海動物が死ぬ原因が水圧の低下に伴う溶液中の溶存気体の気泡化(潜水病)と想定して、気泡化を防ぐ捕獲方法を開発した。この手法で、沖縄トラフに生息するゴエモンコシオリエビの生け捕りに成功して、何を食べているかを調べた。炭素の放射性同位元素で印をつけた二酸化炭素やメタンが、外部共生菌だけでなく、宿主のゴエモンコシオリエビの筋肉にも取り込まれることをこれまでに確かめていた。この結果から、ゴエモンコシオリエビは外部共生菌を栄養源にしていることが間接的に証明された。

今回、研究グループはさらに、ゴエモンコシオリエビが体の毛に付着した化学合成菌とメタン酸化菌を口で摂取して栄養を受け取っていることの決め手となる証拠を探した。解剖したゴエモンコシオリエビの腸管を顕微鏡で観察して、エビの体毛や外部共生菌が取り込まれていることを見つけた。腸をすりつぶした抽出液には消化酵素の活性が確認された。 次に、栄養分として重要な炭素固定量を調べた。外部共生菌の炭素固定量は宿主のゴエモンコシオリエビが受け取った栄養分よりも40倍以上高く、外部共生菌だけが栄養源になり得ることを実証した。一連の実験から、ゴエモンコシオリエビは胸毛に付着した細菌を、顎の脚でかき集め、こそいで食べて生きていることがはっきりした。

和辻智郎研究員は「深海動物と外部共生菌は持ちつ持たれつの関係にあると考えられる。その栄養的な共生関係を疑いの余地なく示した初めての成果だ。ゴエモンコシオリエビが外部共生菌を積極的に育てているかどうかはわかっていない。今後はその点も調べたい。この研究はまだ謎が多い深海熱水噴出孔の生態系を理解する上で大きく貢献するだろう」と話している。