人工タンパク質の研究でひとつのブレークスルーが起きた。コンピューターで完全回転対称プロペラ型の人工タンパク質を設計し、設計通りのタンパク質を実際に製造することに、横浜市立大学大学院生命医科学研究科のジェレミー・テイム(Jeremy R.H.Tame)教授と大学院生の野口大貴(のぐち ひろき)さん、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター(横浜市)のアーノルト・ボエト(Arnout R.D.Voet)博士、カム・ザング(Kam Y.J. Zhang)博士らの共同研究チームが世界で初めて成功した。

図1. ピザ型人工タンパク質のリボンモデル図。6個のドメイン(部品)が自己組織化で合体して、完全6回回転対称型の構造になった。スケールの1nmは10億分の1メートル。(提供:横浜市立大学、理化学研究所)

形状がイタリア料理のピザに似ていることから、このタンパク質を「ピザ型」と名付けた。タンパク質はアミノ酸42個からなるドメインが6個自己会合して、回転対称性を持つ六角形のピザ型になった。さらにこのピザ型が連なった巨大な複合体まで、折り紙細工のようにさまざまな構造を作れることも示した。この成果は「遺伝子重複が生物進化の原動力になった」とする遺伝子重複説の傍証となる。このピザ型人工タンパク質は100℃近い熱にも安定なため、ナノバイオテクノロジー分野での活用が期待されている。10月6日付の米国科学アカデミー紀要のオンライン版に発表した。

図2. ピザ型人工タンパク質のバリエーション、工夫次第で多様な形にできた(提供:横浜市立大学、理化学研究所)

研究グループは結核菌のタンパク質を調べていて対称性に着目して、それをヒントに42個のアミノ酸が配列したドメインを「プロペラ型ファミリー」のタンパク質としてコンピューターで設計した。設計方法の基本には「現在の類似タンパク質の遺伝子群は同一の小さな先祖タンパク質が重複して、変化してきた」とする進化の遺伝子重複説を取り入れた。42個のアミノ酸の配列に対する人工遺伝子を大腸菌に組み込んで大量生産させた。

このドメインは、6個が寄り集まって自己組織するように合体し、6回回転対称の構造を形成して非常に安定していることが理論的に予想された。人工的に作ったドメインは実際その通りに、アミノ酸配列計252個分子量約2.5万の六角形の構造になったことをX線結晶構造解析で確かめた。さらに工夫次第でさまざまなピザにすることもでき、六角形のピザが7個集まった巨大な複合体まで作れた。「ピザはお好み通りに」と注文を受けて自由自在に作れるように、多様なタンパク質ができあがった。

この人工タンパク質は、電子レンジに入れて100℃近くまで加熱しても安定しており、ナノとバイオを融合させた新しいナノバイオテクノロジーのデバイスに使えそうだ。また、人工タンパク質も設計が的確なら、同じ部品が重合して多様な立体構造を作れることを実証した点も、意義があるといえる。

2001年から横浜市大で教授を務める英国人のジェレミー・テイム教授は「われわれの成功は遺伝子重複説を支持するだけでなく、シンプルな設計で、立体的な構造があるタンパク質をデザインできることを実証した。この設計方法の原理は、ほかのタンパク質にも応用できる。人工タンパク質は多様な可能性を秘めている。自己組織化でさまざまな形ができあがるナノスケールの部品は、微小電子デバイスなどナノバイオテクノロジーに役立つだろう」と話している。