実りの秋は台風の季節。近年多発している大型台風に耐えられる作物の育成は重要な課題である。その研究に光を当てる成果が出た。最強のイネで知られる、倒れにくい品種「リーフスター」の遺伝変異を調べ、低リグニン性と茎が強い性質を併せ持つ謎を、東京農工大学大学院農学研究院の大川泰一郎(おおかわ たいいちろう)准教授らが解明した。倒伏しにくい強稈性の作物の品種づくりに道を開く成果といえる。名古屋大学、富山県農林水産総合技術センター、農業生物資源研究所との共同研究で、10月9日付の英科学誌サイエンティフィックリポーツのオンライン版に発表した。
地球温暖化で集中豪雨や大型台風が最近増え、風雨による倒伏被害が拡大している。茎が強くて倒れにくいイネの品種改良が世界中で必要になってきた。大川泰一郎准教授らは2008年、食味が良いコシヒカリと旧中国農業試験場(広島県福山市)で育成された中国117号をかけあわせて、強風でも倒れない新品種リーフスターを作った。この新品種は茎が強くて長いにもかかわらず、茎の強度を高めるリグニンが少なかった。リグニンが少ないのに、なぜ茎が強いのか、謎だった。
写真2. リーフスターの茎組織の顕微鏡写真。左は薄くなった皮層繊維組織のリグニン(赤)。中央はセルロース、ヘミセルロースなどβグルカン(青)の細胞壁への集積。右は皮層繊維組織の発達と二次壁の肥厚(提供:東京農工大学) |
研究グループはリーフスターの遺伝変異や新しい茎の形質を詳しく解析した。リーフスターではリグニン合成酵素の遺伝子が変異していた。茎が太い中国117号よりもリグニン含有量がさらに低い理由がわかった。このリグニン合成酵素の変異は中国117号から引き継がれたものでなく、選抜する過程でコシヒカリの遺伝子に偶発的に生じた変異に由来していた。
リーフスターの茎の構造を蛍光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で観察した。細胞壁を構成するセルロースとヘミセルロースの密度が高く、茎の外周部に位置する皮層繊維組織が発達し、二次壁がよく肥厚していた。内側にある柔組織細胞の一次壁も厚かった。このような形質が低リグニンでも茎の強度を高める原因となっていた。この形質は中国117 号ではなく、茎が細く強度が弱くても皮層繊維組織がよく発達するコシヒカリから受け継がれたことも確かめた。
植物の強度を支えるリグニンは、消化しにくい物質のため、リグニンに頼らずに植物の強度を高める仕組みが、飼料作物やバイオマスエネルギー作物の品種改良で重視されている。リグニンの含有率が低くて、大型台風に強いリーフスターは、その理想を実現した品種になっていたことが、今回の研究で裏付けられた。
研究グループの大川泰一郎准教授は「フィリピンなどでもスーパー台風の被害が増えており、猛烈な強風でも倒れないイネの品種がこれからは必要になっている。リーフスターが備える特性は、茎を強くする方法を示している点で意義がある。リーフスターよりもさらに茎が太くて強いイネ品種を作りたい。ほかのイネ科植物の育種の新しい指針にもなるだろう」と話している。