国内でも人気が高いスタジオジブリ作品。海外では人気が出るまでに比較的時間がかかったものの、ベルリン国際映画祭金熊賞などをきっかけとして一気に広がりました。そんなジブリ作品を海外の人はどう見ているのでしょう。
今回は、日本在住の外国人20名に「スタジオジブリの映画で最も絵がかっこいいと思うものは?」と質問してみました。
■もののけ姫(フィリピン/40代前半/女性)
■もののけ姫(スペイン/30代後半/男性)
■もののけ姫(アメリカ/20代後半/男性)
■もののけ姫(ペルー/30代前半/男性)
1997年7月公開の『もののけ姫』は、絵コンテを宮崎駿、作画監督を安藤雅司、高坂希太郎、近藤喜文の3名が担当。14万枚のセル画と3DCGの多重合成、デジタル彩色などを用いたジブリ最後のアナログ作品です。
内容は、人間と神々の対立を背景に「もののけ姫」サンとアシタカとの出会いを描いたもの。舞台は屋久島や白神山地、津軽峠など、アシタカの衣装や道具はやマタギ、娘の装束は縄文時代のブータンや北タイの文化などを参考に、綿密な調査に基づいた描写になっています。また闘いの場面があるため、ジブリ作品には珍しく人間のけがや死ぬ場面などの描写も多めです。英・仏・広東・独・伊・スペイン・ポルトガル語でDVDが発売されており、世界のさまざまな地域の方から名前が挙がっているのも納得です。
■ちひろ(ロシア/20代前半/女性)
■千と千尋の神隠し(イギリス/20代前半/女性)
■千と千尋の神隠し(イスラエル/30代後半/女性)
2001年7月公開の『千と千尋の神隠し』は、日本歴代興行収入第1位、ベルリン国際映画祭金熊賞などを受賞し、世界にジブリの名を広めた作品です。絵コンテを宮崎駿、作画監督を安藤雅司、高坂希太郎、賀川愛が担当。少女千尋が迷い込んだ神様の町での出来事を、謎の少年・ハクや町の住人とともに描いています。
作品の舞台となる銭湯は、江戸東京たてもの園の子宝湯や道後温泉本館、目黒雅叙園などをモデルに、近代的な施設と純和風な極彩色の建築が融合した描写に。また周囲の飲食店街は新橋の烏森口や有楽町ガード下が参考になっています。回答の上位2作品がほぼ同じメンバーで制作されているのが興味深いですね。やはり代表作としてのカラーが見えるということなのでしょうか。
■風の谷のナウシカ(タイ/30代後半/女性)
■風の谷のナウシカ(マレーシア/30代前半/男性)
1984年に公開された『風の谷のナウシカ』は、宮崎駿が『アニメージュ』に連載していたマンガが原作。スタジオジブリの前身トップクラフト時代の作品で、高畑勲、鈴木敏夫、久石譲と後にジブリ作品を支えるスタッフが初めて集結した一本です。
内容は、「風の谷」に住む族長の娘ナウシカが、人々から恐れられる「腐海」を巡ってトルメキア軍と闘い世界を守ろうとするというもの。腐海の主・王蟲の登場シーンでは巨大さや重量感を表現するため、セル画をグラデーション的に着色するハーモニー処理、体節の動きを再現するため、パーツをゴムでつないで伸縮させるゴムマルチという方法が採用されているなど、描写の技法面でも興味深い点が多い作品です。ちなみに、『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明もスタッフとして参加していました。
■トトロ(トルコ/30代前半/女性)
■となりのトトロ(台湾/40代前半/男性)
1988年4月公開の『となりのトトロ』は、絵コンテを宮崎駿、作画監督を佐藤好春が担当。昭和30年代前半の日本を舞台に、田舎に引っ越してきたサツキ&メイ姉妹と不思議な生物「トトロ」の交流を描いたファンタジー。宮崎氏が日本アニメーション在籍中から構想を練っていた物で、女の子がトトロに出会う場面を2パターン思い付いたことから姉妹の設定が生まれました。
舞台の参考は、宮崎駿が過ごした聖蹟桜ヶ丘や神田川、狭山丘陵など。トトロの原型は、宮沢賢治『どんぐりと山猫』、大トトロ(ミミンズク)で1,302歳、中トトロ(ズク)で679歳 、小トトロ(ミン)で109歳の設定だったそうです。
■紅の豚(ドイツ/40代前半/女性)
1992年7月公開の『紅の豚』は、絵コンテを宮崎駿、作画監督を賀川愛、河口俊夫が担当。世界大恐慌時のイタリアを舞台にした賞金稼ぎの退役軍人(ブタ)の物語。元はJALの機内上映用に制作され、長編化したことで劇場版に変更されました。『モデルグラフィックス』連載「宮崎駿の雑想ノート」の「飛行艇時代」をベースに宮崎駿が自身の夢を描いた一本です。
主人公の飛行機の色「紅」が、カーレースでイタリア人レーサーが搭乗する車の色「ロッソ・コルサ」から来ているなど、当時のイタリアの風俗が忠実に描写されています。また、「サボイアS.21試作戦闘飛行艇」や「カーチスR3C-0非公然水上戦闘機」など実在の水上機も登場し、同氏の飛行機好きが存分に発揮された作品です。
■天空の城ラピュタ(ブラジル/20代後半/男性)
1986年8月公開。スタジオジブリの記念すべき1作目は、絵コンテを宮崎駿、作画監督を丹内司が担当。宮崎氏が小学生時代に考えていた物語を元にしたオリジナルアニメです。「ラピュタ」とは、『ガリヴァー旅行記』に登場する空飛ぶ島の王国「ラピュタ王国」のこと。産業革命期のヨーロッパを舞台に、少女シータと少年パズーがその「ラピュタ」を探すという物語。
空中海賊・ドーラ一家の「タイガーモス号」(空中母船)やはばたき飛行機、『スーパーマン』の現金強奪ロボットを元にしたロボット、軍の飛行船艦など、独特の形状をしたメカデザインも注目です。
■メインの動物。(韓国/40代後半/男性)
■映画に出てくる街の風景など。(スウェーデン/40代後半/女性)
■ジブリの絵は全部よくてかっこいい。(アルゼンチン/30代前半/男性)
ジブリ作品では人間だけでなく、トトロをはじめとした不思議な生物、『紅の豚』のポルコのように、"メイン"をはる"動物"もいて、どちらも表情豊か。また、前述の作品説明でご紹介したように、背景や衣装などは綿密な調査に基づく精細な描写が行われています。作品を通して高いクオリティを保ってきたということが、こちらの回答群からは伺えます。
回答に出てこなかった作品の中にも『火垂るの墓』や『魔女の宅急便』など、さまざまな作品があります。しかし、海外の人たちが「かっこいい」と感じる作品には、ファンタジー的もしくはSF的なものが大半。知名度をのぞけば、ストーリーのかっこよさも関係しているのかもしれませんね。