キーサイト・テクノロジーは10月3日、品質保証や量産現場における計測機器を省スペースで活用したいというニーズに対応することを目的にPXIe規格準拠のベクトル・ネットワーク・アナライザ(ネトアナ)「M9730Aシリーズ」および掃引型スペクトラム・シグナル・アナライザ(スペアナ)「M9290A CXA-m」の提供、ならびにAXIe規格準拠の12ビット高速デジタイザ「M9703A」の機能を拡張したと発表した。

これまでRFやマイクロ波といった分野においてモジュラー式計測器の選択肢はほとんどなく、あっても用途が限定されていたり、といった問題があったという。また、第5世代移動体通信システム(5G)をはじめとする次世代無線通信では、広帯域、マルチチャネルの測定ニーズがあり、そうした計測を省スペースで実現したいという要求もあったとのことで、そうしたニーズに対応することを目指し、計測の鍵となるスペアナとネトアナのPXIeモジュールの提供を行うことを決定したという。

モジュラー型の提供で開発から製造まで一貫して同じ環境で測定できるようになった

M9370Aは最大周波数26.5GHzをPXI 1スロットで対応可能な2ポートネトアナ。9GHzで116dB以上のダイナミックレンジ、測定バラつき0.001dB以下、掃引時間16ms(401点、300k to 9GHz)を実現しながら、同社のボックス型ネトアナであるPNAシリーズやENAシリーズと同じ校正や補正演算を搭載しているため、ボックス型と同じ測定値を得ることが可能となっている。

また、最大32ポート構成を実現可能で、そうした多ポートを一度に校正することも可能だという。

M9370Aの概要。最大32ポートのシステムとして構築することが可能

一方のM9290A CXA-mは同社のボックス型スペアナ「CXAシリーズ」の性能をそのままにモジュラー型にしたもの。1台で4スロットを使用するが、最大で26.5GHzに対応し、GUIやファームウェアもCXAのものを流用できるため、従来のCXAと同じ使い方が可能だという。

M9290A CXA-mのmはモジュラー型のmで、CXAシリーズのモジュラー版という意味だという。そのためボックス型のCXAシリーズとほぼ同じ性能を実現している

またソフトウェアとしてもCXAのハードウェアボタンなどをエミュレートしており、測定アルゴリズムも同じものを利用できるという。

さらに重要なのは、PXIスペアナながら掃引型を実現したこと。これまではPXIベースではFFT方式しか提供されていなかったが、これにより掃引型アーキテクチャを元にした電波法や規格試験などに対応することが可能となった。

掃引型を実現するためには、見えていない周波数が外来から入ってくる可能性があるので、前段にフィルタ(プリセレクタ)を入れて、特定周波数を掃引する必要があった。従来、同社は独自技術のフィルタ技術としてYTFを用いていたがサイズが大きくモジュラー型への適用は困難であった。そこで、新たにオンボード化技術を開発し、YTFと同等に近い性能を実現。これにより、外来ノイズ環境でも測定できるようになったほか、広帯域信号や未知の信号の測定も可能となったとする。

小型/低価格化を実現したRFプリセレクターを開発、搭載したことでモジュラー型としての提供が可能になったという

そして「M9703A AXIe 12ビット高速デジタイザ」の機能拡張は5Gを中心とした次世代通信ニーズに対応することを目指したファームウェアのアップデートとなっている。

具体的にはインターリーブ時で最大1.25GHzの広帯域測定に対応したほか、13枚搭載可能なラックを活用することで最大104chの位相コヒーレント受信機を構築することが可能となり、多チャンネル×多チャンネルによるMassive MIMO測定にも対応することができるようになったとしている。

「M9703A AXIe 12ビット高速デジタイザ」の概要と今回のファームウェアアップデートの内容

なお、すでに新しいファームウェアは無償で提供を開始しているほか、M9370Aシリーズ、M9290A CXA-mも受注を開始しているという。

ボックス型が「PNAシリーズ」の67GHzまで対応する「N5227A」。モジュラー型が「M9375A」。いずれも測定画面は同じものを利用することが可能

ボックス型が「CXAシリーズ」の26.5GHz対応品「N9000A」。モジュラー型が同じく26.5GHz対応の「M9290A」。やはりGUIや測定画面はいずれも同じものを利用することが可能

1つのPXIシャーシ上に様々なモジュールを搭載することで、用途に応じた計測システムを構築することが可能となる。画像は一番右の2枚が「M9375A」、その左隣に「M9290A」が挿さっているシステムとなっている

一番左は上段のPXIモジュールシステムの画面。ボックス型と同じ測定画面が出ていることが分かる。右3枚は「M9703A AXIe 12ビット高速デジタイザ」を組み入れたシステム。一番上のスロットがM9703A。写真だと見づらいが。1.25GHzの帯域幅を一気に見ることができる