産業技術総合研究所(産総研)は10月1日、硫酸性温泉に生息する紅藻(Galdieria sulphuraria)が、特定の条件下で、希少金属として知られるレアアースを効率的に回収することを明らかしたと発表した。
同成果は筑波大学 生命環境系の蓑田歩助教、産総研 計測標準研究部門の宮下振一研究員、稲垣和三研究室長、大阪大学の山本高郁招へい教授、東京薬科大学の都筑幹夫教授らによるもの。詳細は「Applied Microbiology and Biotechnology」(オンライン速報版)で間もなく公開される予定だという。
レアアースをリサイクルしようとする場合、通常、ベースメタルと呼ばれる鉄や銅などの金属が大量に存在する酸性廃液中から、ごく少量のレアアースを回収する必要があるが、現在、コストや回収効率の問題があり、実用的な技術は開発されていない。
現在、回収方法の1つとして、微生物を用いる手法が研究されているが、その多くの場合において複数の金属が存在すると、細胞表層の負電荷の取り合いになってしまい、回収効率が低下するほか、酸性条件では、細胞表層の負電荷が、正電荷を持つ水素イオンによってブロックされてしまい、低濃度での回収効率が大きく低下するという問題があったという。
今回、研究グループでは、草津や登別などの硫酸性温泉の緑色の岩場で見られる、イデユコゴメという和名をもつ藻類の仲間「硫酸性温泉紅藻(Galdieria sulphuraria)」に着目したという。同紅藻は、低濃度(6ppm)の銅を嫌気条件下で高い効率で回収するという報告が30年前になされており、レアアースであるNd3+、Dy3+の効率よく回収できる培養条件を新たに探索した結果、100%窒素通気で、暗所で有機物のみを代謝する準嫌気従属栄養条件において、Cu2+、 Nd3+、 Dy3+が、約70%の高い効率で回収されることが判明したという。
また、酸性の培養液に、La3+を含むレアアース(Nd3+、Dy3+、La3+)とCu2+の4種を加えると、0.5~5ppmの低濃度で、80-100%の効率で細胞にレアアースとCu2+が回収されること、ならびにpHを1.0に下げることで、レアアースが選択的に細胞に回収されることも判明したという。
なお、研究グループでは今回の成果について、低濃度のレアアースを含む酸性の金属廃液からレアアースを高効率で回収する新しい技術の開発に繋がるものだとしており、今後、Galdieria sulphurariaがレアアースを細胞内に蓄積するメカニズムの解明を進め、条件の最適化を図ることなどにより、高効率で経済性のあるレアアースのリサイクル技術の構築につなげたいとしている。