既報の通り、Synapticsは10月1日付でルネサスエスピードライバ(RSP)の買収を完了したことを発表した。これにより、Synapticsはタッチソリューションベンダから、中小型液晶向けドライバICも手掛ける表示デバイス向けソリューションベンダへと変貌を遂げることとなる。果たして、新生Synapticsはどのような姿となるのか、Synapticsの社長兼CEOのリック・バーグマン氏に話を聞いた。
--6月11日の発表から約3カ月での買収完了ですね
この統合が実現するまで、忙しい日々を過ごしてきた。事前に2014年の第4四半期中には買収を完了する予定とアナウンスをしていたが、最速の形で実現でき、新生Synapticsとしてのスタートを切ることができた。
--この買収・統合の意図するところは何でしょう?
6月の時点でも買収の背景を説明したが、実際に統合が進んだことで、よりエキサイティングな結果を生み出すこととなった。Synapticsはタッチソリューションのリーダーであり、RSPはディスプレイドライバのリーダー企業だった。買収の発表以降、RSPと連携を図ってきたが、両社の顧客の反応は非常に好意的だ。これまでもSynapticsは成長を続けてきたが、今回の統合により、2015年以降も、成長が続くという評価を受けている。
--とはいえ、日本の企業と米国の企業が統合されたわけですから、そのギャップの解消など問題点もあったのでは?
この3カ月の間、新生Synapticsの組織をどのようにするかという話を常に行ってきた。確かに、国際的な買収・統合ということで、組織を構成させる簡単な答えはなかった。さらに問題を複雑化したのは、それぞれの企業が互いのコアビジネス分野においてリーダー的なポジションを有していたことだ。既存のリーダーとしての地位を確保しつつ、統合後の共同開発製品にも注力しなくてはいけないというバランスの問題があった。しかし、現在のチームはそれらの要素をうまくかみ合わせ、最適な配置ができたと思っている。
RSPの代表取締役であった工藤郁夫氏には、ドライバICの事業である「CDD(カスタマドライバディビジョン)」の担当と、日本のPresidentに就任してもらって、日本でのプレゼンス強化を図ってもらうこととなっている。
--中小型の液晶パネルが適用されるのは従来、スマートフォン、タブレット、ノートPCと言われてますが、これに変わりはない?
その3分野は両社が従来から注力していた分野で、今後、両社の技術連携の強化を進めることで成長の機会を拡大していくこととなる。一方、今後の成長分野として、奇しくも両社ともに自動車業界をターゲットに考えていたことも買収発表後で分かった。従来からのコアマーケットとこうした新市場で適用される我々の技術が適用できるセット製品の出荷台数は2013年では13億台だが、2017年には21億台まで拡大することが見込まれている。
もちろん、出荷台数の増加に伴って売り上げは拡大されていくだろうが、それ以上に今回の買収により、それぞれのセット製品に対して、我々のソリューションを複数投入することが可能になり、それがさらなる売り上げの拡大につながることとなる。
--例えば?
今までもタッチコントローラやタッチパッド、指紋認証などを1つのシステム上に提供してきたが、今後はドライバICなども提供できるようになり、そのチャンスが広がることが期待される。
--さきほど、統合後の共同開発製品にも注力という話がありましたが、そういった製品もさらにそうしたチャンスを広げてくれることになる?
これまでも我々単体で「Touch Display Driver Integration(TDDI)」という技術の開発を行ってきた。これはHDやフルHD以下のミドルレンジを狙った1チップソリューションだ。これまでタッチセンサチップとディスプレイドライバICは別々のチップで、それぞれの処理をホストプロセッサを介して行う必要があった。これがTDDIになるとタッチ処理とディスプレイ表示処理をホストプロセッサを介さなくて、1チップ内で独立して処理できるようになり、初めてタッチとディスプレイのイベントが完全に同期化されるようになる。
HD/フルHDのスマートフォンがいわゆるミドルレンジ製品として同社では位置付けており、この市場における低価格化などのニーズに対応するためにTDDIが開発されている。同社の製品ラインアップとしてはタッチセンサ単体、ディスプレイドライバ単体と、ガラスパネルにタッチセンサを組み込むIn-Cell製品もジャパンディスプレイと協力して提供しており、TDDIはそうしたIn-Cellの発展系の1つと言える |
--買収時の説明で、そうした製品を2016年には提供すると話されてましたね
実は統合作業が順調に進んだことで生まれたメリットの1つとして、こうした技術開発も順調に進んでいることが挙げられる。6月の時点で2016年と言っていたが、チップとしては、もう少し早く提供できるようになると予測している。ただし、それを搭載するのはスマートフォンの端末メーカーの状況次第というところがあるので、具体的なセット製品がいつ出荷される、という点はコメントできない。
--そうすると、その次も考える必要がありますよね?
すでに我々は商標も取得している「Smart Display」というソリューションの実現に向けて動いている。TDDIの発展系で、ディスプレイ一体型ソリューションという位置づけだ。
--ディスプレイもやると?
そうではない。TDDIはタッチとディスプレイドライバの1チップソリューションだ。Smart Displayはそこに16ビットのプロセッサを搭載させることで、例えばタッチによる拡大・縮小処理などをホストプロセッサを介さずにディスプレイ側のみで実現しようというもの。例えば我々のソリューションの1つに指紋認証機能があるが、現在はディスプレイの決まった位置を触れる必要があるが、この技術を活用することでディスプレイのどこを触っても認証できるようにすることも可能になる。
--NVIDIAやAMDがGPUとCPUの統合チップを提供していますが、そうしたイメージですか?
そこまでハイパフォーマンスではない。ディスプレイを介するアクションはディスプレイ側で処理をできる限りしよう、というもので、ホストプロセッサを置き換えて、1チップでなんでもできる、というものではない。これにより、ホストプロセッサの負担を減らし、メインメモリとのやり取りも減らせるので、省電力化も可能になるというメリットを得られる。
--そうした技術はやはりスマートフォンやタブレットが中心ですか? 先ほど自動車という話がありましたが、ナビなどのインフォテイメント部分ならともかく、インパネなどにタッチは向かない気がします
確かにTDDIやSmart Displayはインフォテイメント分野では活用されるだろうが、インパネなどタッチがあまり必要のない部分は従来のディスクリート製品で対応していくことになる。我々は、次世代の統合製品だけでなく、そうした従来のディスクリート製品を今後も継続して提供していく意思も持っている。
--車載分野ではタッチ以外に音声が入力インタフェースとして期待されていますが、そういった分野には進出しないのでしょうか?
音声でのコントロールは車載分野ではそぐわない部分があると考えており、Synapticsとしての現時点での答えはノーだ。あくまでタッチ技術にこだわっていく。
--わかりました。半導体業界としては自動車に期待が集まっていますが、それ以外にも産業機器や医療機器といった分野も有望市場と見られていますが、そうした分野への対応はどうでしょう?
ゲイズトラッキングやオーディオ関連でのヒューマンインタフェース、3Dジェスチャなど、興味分野としては多岐にわたってはいる。ただし、あくまで技術的に有望であるかどうかが重要。Synapticsとしては、これまでも複数の企業を買収してきたが、そういった買収部分を抜いた旧来の技術だけを見ても売り上げの拡大を実現してきた。そうした意味では技術そのものに投資を行っていくことが重要だと思っており、売り上げの約20%を常にR&D費用として新技術の開発を行っている。
--今回のRSPの買収も技術的に有望であったから、と?
そういうことになる。
--それではそうした日本の企業を買収したことで日本でのビジネスの展開の仕方にも変化は出てくるのでしょうか?
RSPの強みがもともと日本にはあるので、それを活用していきたいと思っている。RSPは日本において成功を収めてきた企業だ。そうした意味では、その強みを今後も生かして、新たな市場の開拓を進めていってもらうつもりだ。
--日本を担当する工藤さんはいきなり大変な役目を任されたわけですね
まだ数値的な目標は出していないが、現時点で彼には2つの大きな目標を伝えている。1つ目は統合をスムーズに移行させてもらいたいということ。もう1つはそれを踏まえて既存の顧客との良好な関係を継続していくことだ。
--それでは最後に日本のユーザーカスタマに向けて新生Synapticsとしてメッセージがあればお願いします
今回RSPがSynapticsに統合されたことは、日本でのビジネスの拡大を図る上で、非常に大きな意味を持つこととなる。重要な点として受け取ってもらいたいことは、RSPの買収に伴い、日本に対してSynapticsが投資を行っていく姿勢が見えたであろうということだと思っている。我々は、日本を重要な市場と認識しており、日本の顧客の重要性を認識しているし、今後も継続して顧客のニーズに全力で応えていくつもりだ。
--ありがとうございました