さくらインターネットはこの夏、新たな取り組みとして「野外フェスへのWi-Fiスポット提供」を実施した。提供先は、国内でも人気を誇る野外音楽フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO (RSR 2014)」。本稿では、同イベントでのWi-Fiスポットの利用の様子や、同社の今後の取り組みなどを明らかにする。
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO (RSR 2014)は、1999年に「日本初のオールナイト野外ロックフェスティバル」として開催され、「日本4大フェス」として「FUJI ROCK FESTIVAL」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」と肩を並べる。
毎年8月、北海道・小樽市の石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージにて実施する同イベントは、日本のアーティストを中心としたライブのほか、北海道の食を味わうことのできる飲食店やアトラクション、会場内でのテント利用による宿泊などを楽しむことができる。広々とした土地に生えた草刈りや電気・水道などのインフラ整備、ステージ設営などの準備作業によってようやく出現する「一つの街」のようだ。
「広大な土地があり、オールナイトでロックフェスティバルを開催できる場所は、北海道しかないだろうと思いました。さらに都市部からの利便性も考慮し、小樽市の石狩湾新港での開催となりました」と、同イベントのプロデューサーでウエスの常務取締役 若林良三氏は説明する。
RSR 2014プロデューサー / ウエス常務取締役 若林良三氏 |
16回目の開催となるRSR 2014は、8月15日~16日の2日間にわたり行われ、約6万の来場者で賑わった。会場は、「SUNSTAGE」と「EART TENT」「RED STAR FIELD」「RAINBOW SHANGRI-LA」「def garage」「BOHEMIAN GARDEN」の6つのステージで構成された。
このうち、さくらインターネットがWi-Fiスポットを提供したのは、「BOHEMIAN GARDEN」。同エリアは、 メインステージとなる「SUNSTAGE」から徒歩40分ほど離れたフォレストテントサイトの中に位置し、「寝転がって空を見ながら歌を聴く」というコンセプトのため、比較的静かでゆるやかな時間を楽しむことができる。他のエリアと比べ、スマートフォンなどでのインターネットの利用が多くなる可能性が高い場所だ。
同Wi-Fiスポットでの接続状況は、8月16日16時が最も多く、46名が同時に接続していたという。同時間帯は、BOHEMIAN GARDENステージにて、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotch氏がライブを行っていた。「集客状況も、Wi-Fiのスポットをセンサー代わりにして計測できるのでは」と、さくらインターネット 石狩IDC センター長の宮下頼央氏は述べる。
RSRでは、来場者のインターネット利用にどのように対応していたのか。
同イベントでのWi-Fiスポット設置は、敷地内にインターネットカフェを設けたことから始まったという。「アップルをスポンサーとして、パソコンを置き、公衆無線LANでインターネットに接続ができ、充電もできるというインターネットカフェの形式で用意していた」とRSRチーフディレクターの武田豪氏は説明する。
NTTドコモとの連携で、初めて移動基地局を設けたのは2002年(第4回開催時)。前年の2万4000人を大きく上回る6万9000人の来場者を記録し、「爆発的に集客が増えたため、従来の設備では対応できないだろうと思い導入した。それから、キャリアの縛りはあるが、公衆無線LANをとばすなどの対策を行うことになった」という。一方で、「昨今は、スマホのテザリング機能やポケットWi-Fiで無線LANが使えるようになってきているので、主催者側としての提供は縮小気味」(武田氏)という。
今回の連携には、どのような背景があったのだろう。
「RSRの開催地である北海道・小樽市の石狩湾新港の近くに、さくらインターネットの石狩データセンターがあります。同じ地域に根ざすものとして、自社サービス・同データセンターを活かした貢献を目指しました」(宮下氏)
やはり、今回の同エリアへのWi-Fiスポット設置を後押ししたのは、「さくらインターネットの石狩データセンタへの近さ」であろう。同データセンタは、イベント開催エリアの中でも「BOHEMIAN GARDEN」に最も近く、肉眼で確認可能な距離に位置する。「中継するポイントを増やすことなくスポットの設置が行えたことは、コスト面でメリットだと感じた」と武田氏は述べる。
イベントにて同社は、ネクステックの太陽光で動く無線アクセスポイント(AP)「Poggimo(ポジモ)」を2台設置。アンテナはデータセンタの屋上に設け、無線LANブリッジにて電波を中継し、PoEのインジェクタとハブを介してAPに接続する構成だ。
開催期間のユニーク接続数は507で、日別では、15日が203、16日が305、17日が115となる。データセンタのトラフィックは、8月16日16時のピーク時が8Mbpsで、スピードテストによると下りは4Mbpsで安定していたほか、上りは20~25Mbpsで、光回線利用時並みの速度を可能としていたといえる。
さくらインターネットは今後、どのような形でRSRをサポートできるのか。
若林氏は、同イベントのコンセプトの一つとして「自分次第」を掲げる。「来場者が、日常を少しだけ逸脱した環境の中で、会場の利用方法や参加ライブのスケジュールなどを自ら考えて行動し、五感で音楽を楽しむイベント」であることを、最も大切に考えるという。
「その中で、ライブビューイングやスマートフォンアプリなどの必要性が高まるのであれば、対応も考えていかねば」と前向きだ。
さくらインターネットの宮下氏は、「(同社は)映像や画像といった大容量のトラフィックを要するストレージなどを得意としている。そういった部分で今後サポートできればうれしいなと思います」と述べた。
(左から)さくらインターネット ネットワーク運営チーム 玉城智樹氏と中山卓也氏・同社 石狩IDC センター長 宮下頼央氏・RSR 2014プロデューサー / ウエス常務取締役 若林良三氏・RSRチーフディレクター 武田豪氏 |