既報の通りIDTは8月1日、同日付でIDTの日本法人である日本アイ・ディ・ティー(日本IDT)の社長に、元LSIロジックのカントリー・マネージャーおよび代表取締役を務めた経験を持つ迫間幸介氏を任命したと発表した。そんな同氏に、今回、話を聞く機会をいただいたので、日本IDTをどのような方向に導くのか、また、日本地域に対して、どういった戦略を考えているのかなどを聞いた。

--:まずは社長就任おめでとうございます。

迫間氏:ありがとうございます。

--:IDTというと、プロセッサの周辺に配置されるさまざまなチップを提供する半導体ベンダというイメージがあります。

2014年8月1日付で日本アイ・ディ・ティー(日本IDT)の社長に就任した迫間幸介氏

そうですね。2~3年前から事業の売却と買収を積極的に行ってきており、新たなIDTの方向性を模索してまして、現在、President & CEOであるGregory Watersの下、4つのビッグトレンドに向けた組織作りが進められています。

--:IDTが考える4つのビッグトレンドとはどういったものでしょうか?

「4G Infrastructure」、「Network Communications」、「High Performance Computing」、「Power Management」の4つですね。以前はPCが中心でしたが、今はエンタープライズ分野向けの技術を中心に据え、それをPCなどの分野に落とし込んでいくという感じです。

IDTが狙う4つの成長市場。同社内の壁にも4つの成長市場を狙うことを目指すボードが掲げられていた

売り上げ比率を見ても、2015年度第1四半期(2014年4月~6月)の売上高の64%がCommunicationsで、次いでComputingが25%、Consumerが11%となっています。

また、地域別の比率としては、アジア・太平洋(APAC)が65%、EMEAが14%、アメリカが13%、日本が8%となっています。これは製造がAPAC中心であることが要因で、日本を統括する私に与えられている使命の1つは、売り上げの増加はもちろんですが、デザインウィンの件数を増やすことがあります。

IDTの2015年度第1四半期の決算内訳

--:デザインウィンを増やすためにやるべきことはどのようなことでしょう?

1つは営業であってもFAEのようなこともやる側面を持ってもらいます。またFAEであっても営業のように、交渉を行える力を持ってもらいます。つまりFAEにしろ営業にしろ、技術的なバッググラウンドを持っており、それにより自らの口で製品を語れるようになる。かつての営業のイメージは、顧客と面会できる段階で、エンジニアを連れていき、技術に関しては彼らに話をさせるといったものでした。しかし、顧客もエンジニアですし、常にこちらのエンジニアがいるとは限らない中、技術的な話をする必要があるわけですし、最近は購買の担当者なども技術職からそちらに回った人などもかなり増えていますので、そうした人への説明する説得力を持つ必要があります。

すでに我々の営業&FAEチームは基本的にはそうした素養を有していますが、この近年の製品ラインアップの変化にともなって、新たな製品に対する知識の習得などが必要となってます。

--:4つのトレンド分野それぞれに適した知識を一人ひとりが有することで、競争力を強化する、と

例えば4Gインフラ向け製品としてはRapidIO、RF、タイミング製品などがあり、ラジオヘッド部分はほぼすべて提供できる体制が整っています。しかし、日本ではあまりRapidIOそのものが知られていません。RapidIOを知ってもらって、かつそれを使ってもらう、というラインからスタートする必要があるのです。

--:そういった意味ではHPC分野などは、これまでのPC周辺にかなり近い分野ですから、比較的楽に対応はできますよね

現在のHPC向けのホットトピックスはDDR4メモリ向けメモリインタフェース製品とクロックなどのタイミング製品ですね。サーバのリファレンスデザインとしても採用されている製品も多くあります。

システムデザインのリファレンスに採用される、という意味ではパワーマネジメント分野も、今回のIDFで発表されましたが、Intelとワイヤレス給電技術向け集積シリコン・ソリューションの開発で提携をしました。IDTのワイヤレス給電技術はQiもA4WPもサポートしており、海外では採用例が増えてきています。今後、そういったリファレンスなどを活用した家具とか、ウェラブル端末、自動車などが登場することも期待できます。

また、パワーマネジメントIC(PMIC)もタブレットやSSD、サーバと幅広く活用されており、Atomサーバのリファレンスデザインにも含まれています。DPU(Distributed Power Units)というモジュールを追加すると5Aずつ電流を追加することができるのが特長で、これを用いた場合、Baytrailベースのモジュールで従来ソリューションと比べて小型化することが可能です。

同社のPMICの特長としてDPUを追加することで5Aずつ電流を追加することが可能となる

従来ソリューションを同社のPMICに変えると、基板サイズの小型化を図ることも可能。また、Intelなどの多くのプロセッサを搭載したリファレンスの周辺チップとして採用されており、信頼性という意味でも高い製品を作ることが可能

--:リファレンスデザインにどう食い込んでいくかが、鍵になってくるというわけですね

IDTの場合、周辺チップベンダであるため、中心に置かれるプロセッサに比べ、デザインの発掘というか、デザインインの期間が短いのです。そのため、常にアンテナを広げておく必要がある。リファレンスのボードを作る段階になって初めて、クロックデバイスは何にするか、というような話です。これはこれで面白くて、まだまだ成長できる余地も大きいと思ってます。

--:具体的にどういったところが面白いんでしょう?

常に新しいこと、新しいものを作っていくという点ですね。4つのチャレンジングな成長分野は、今、新しい製品や技術が世界中で生み出されています。日本も同様で、我々の頑張り次第で、日本のエンドユーザーに我々の技術が普及することにつながりますからね。

--:とすると、全方位で日本のユーザーを囲い込むというような戦略をとる?

必ずしもそうとは言えません。日本としてはポートフォリオを絞って行きたいと思っています。

--:その理由は?

例えばメモリ関連製品ですが、残念ながらもう日本にはメモリベンダが1社も残っていません。その代わり、我々としては、クロック、タイミング、RF、RapidIOといったティア3と呼ぶ製品を活用してもらう機会を増やしていきたいと思っています。また、戦略的な付き合いができる顧客の数を増やしていきたいと思っています。

--:代理店ではなく、直に取引を行う企業を増やしたいと?

代理店はもちろん重要ですが、ダイレクトビジネス部分の強化も必要だと考えています。そのための人員の拡充も検討しています。ダイレクトビジネスとして、我々が提供する製品紹介などのWebサービスなどがあり、もう一方で代理店が活躍してくれるといったブロードな展開を考えています。

--:Webを活用することで、代理店ではアプローチが難しかった企業などにもアクセスしやすくなるということですね

顧客とIDTとのコネクションを強化したいと思っているんです。IDTはさまざまな種類の製品を有していますが、それを知ってもらう必要があるのです。コネクションの強化により、IDTって、こんな製品を持っているんだ、なんで言ってくれなかったんだ、ということをダイレクトに実現したいんです。だから、IDTの全体の製品紹介とかを各地でキャラバン的に行ったりしたいとも思っています。

--:製品が多い分、やることも多岐にわたってくるわけですね

そうですね。やることはいっぱいあります。楽しいことがいっぱい、と言い換えることもできます。やはり仕事は楽しくないといけません。

--:楽しそうですね これまでとは異なる新しいことにチャレンジできていますし、楽しいですね。

--:本日はありがとうございました

日本IDTのオフィスエントランスにて撮影。同社は2014年2月より非常に明るくきれいな印象を受ける新オフィスに移転している