否が応でもやってくる確定申告。多くの個人事業主、中小企業経営者にとって、悩み多き時期がもうすぐやってきてしまう。経理担当者がいれば良いが、ほとんどの個人事業主、中小企業経営者にとっては高嶺の花。結局は働く時間を割いて、山のように溜まった書類と格闘することになる。そんな状況の中、会計ソフトを使えば多少なりとも楽ができるはず。今回は悩み多き、個人事業主、中小企業経営者と実際に触れあう機会が多い、わみ会計事務所の税理士 和美智伸氏(以下、和美氏)に話を伺った。

固定概念と敷居の高さが邪魔をする

-個人事業主、中小企業経営者が、会計ソフトの導入に踏み切れない理由はどこにあるのでしょう?

わみ会計事務所 税理士 和美智伸氏

和美氏 昔から言われているのは「手書きが良い」という固定概念がある方ですね。パソコンで自動化すると効率化に繋がることは理解していただいているのですが、それを「楽をする」というように捉えてしまっているのです。まぁ、これはかなりご年配の世代の方々に見られたケースです。

最近では、そうした会社も2世の方が経営者になっていたりもしますから、もともとパソコンとは触れあう機会が多かった。そうした方々は、会計ソフトを導入したいと考えている人も多いのですが、「やり方は変えたくない」という考え方を持っているようです。

もともと、会計ソフトを使うにしても最低限簿記の知識は必要です。例えば、簿記を勉強してみようかと思うと、1回2時間のコースで全6回とかが一般的で、基礎知識から応用まで一通り全部やる。本人としては、用字用語や会計ソフトの作りが分かるだけの知識が欲しいのですが、面倒な手計算を教えられるので余計に敷居を高く感じてしまうのです。

-なるほど、固定概念や敷居の高さといった「イメージ」が邪魔をするのですね。そのような方々は、手書きで帳簿を作成するのですか?

和美氏 そうです。ただし、手書きをするにも一定のルールがあります。例えば、簿記にしても順番があります。簡単に言うと、伝票を切る、元帳へ転記する、そして試算表を作るというものです。最初の工程になる仕訳日記帳や振替伝票を作るには簿記の知識が必要です。しかし、それ以降はすべてシステムなんです。伝票のここに書かれているものは、ここへ写す。といった一連の決まった作業が続くことになります。すなわち、会社の経理の90%は単純な書き写しなのです。

この一連の作業を間違えなければ会計も楽なのですが、実際にはそうしたシステム的に出来る部分でミスをしてしまう。複式簿記では貸借が一致しなければなりませんが、最終的に出てきた数字が合わないことが多々あるのです。

結論からいえば、どこかで入力ミスをしているわけなんですが、それはその時には気が付かない。それが3ヶ月に一度、半年に一度といったペースで見つけられればまだしも、1年後の決算時に発見された場合は、どこでミスが発生したか遡らなくてはいけない。その労力は相当なものです。

会計ソフトを使う一番のメリットは、システム的に入力された数値の計算は絶対に間違えないところです。もし入力した数値にミスがあった場合でも発見はたやすい。これは、手書きの会計と比べた場合は特に大きな違いといえるでしょう。

会計ソフトを使うことの真のメリット

-伝票が多い業種は特にそうでしょうね。正確な計算という側面以外にも会計ソフトを使うメリットはありますか?

和美氏 たくさんあるのですが、私が特に感じるのは、会計ソフトを使うとリアルタイムに試算表が出せるという点ですね。これは社長が経営を見るのにとても役立ちます。逆に手書きで帳簿を作って、税理士に預けるという場合には、試算表が出てくるのは良くて翌月か翌々月。税理士に提出するのが3ヶ月に1回とか、半年に1回なら、もっと遅くなります。1年に1回のところは、決算書が出るまで会社の経営状態が分からないということになってしまうのです。

これはリーマンショックの際に顕著に出ました。事前に対策を立てて直撃を回避できた会社は、リアルタイムあるいは1、2ヶ月後の試算表を持っていたところでした。試算表が1年に一度のところは、それこそ気が付いたら会社にお金が無くて傾きかけていた、というところも多かったです。そういった実例がある以上、決算書の制作などは税理士に任せるとしても、会計ソフトがあれば暫定的な試算表はいつでもすぐに見られるのです。このメリットは計り知れないと思いますよ。

この辺りのことを私はよくダイエットに例えます。ダイエットは体重を量ることが大切ですが、これは毎日付けていくのが基本です。ダイエット中の急激な体重変化は危険ですから、日々の経過を観察していればそれがすぐに分かる。しかし、1週間に1回、1ヶ月に1回では、そうした急激な変化に気が付かないかも知れません。

ダイエットだけでなく、健康診断も1年に1回ではなくマメに受けることが推奨されていますよね。経理もそれと同じで、会社の健全な運営にはマメな経過観察がとても大切なのです。

-それを考えれば、会計ソフトを使ったほうがより実戦的な経営に役立てられますね。

和美氏 そうなんです。会計ソフトを使うことのデメリットは無いと思います。唯一、考えられるデメリットは予算でしょうか。確かにパッケージソフトなどで高額なものもありますが、年間数万円、あるいは十数万円程度であれば、絶対に間違えないベテランの経理担当者を雇うよりも安くすむはずです。税理士に払う顧問料だって、毎月数万円はしますのでトータルで考えることが大切だと思います。

また、予算がネックになるのであれば、現在では無料のソフトウェアにも良い物があります。例えばフリーウェイジャパンの「フリーウェイ経理Lite」なら、会計に必要な基本的な帳票類が揃っていますし、1社で使う分には永久に無料です。

それに加えてグラフ類も揃っているのも良いですね。これなら数字が苦手な経営者でも、視覚で会社の経営診断ができる。決算書も提出用として使えるクオリティを持っていますから、個人事業主や中小企業が利用する分には機能的に十分だと思います。

どのようなソフトウェアにも言えることですが、使うのであれば最低1年は試してみてください。3ヶ月で辞めた、半年で使いたくなくなったという方もいますが、次のソフトを使うときにまた、最初から数値を入力していかなければなりません。その手間もありますが、結局決算書を印刷するまで、そのソフトの善し悪しは分からないということです。日々の入力から決算書を作ってみて、やっぱり自分と合わないということであれば、それは本当に合わないと思いますから、ソフトの乗り換えを検討してみるのも良いでしょう。

-最後に会計ソフトを導入したいと感じている経営者にアドバイスをください。

和美氏 多くの個人事業主や中小企業にとって、会計は大きな負担と考えてしまいがちです。しかし、会社としての経営判断をするためにもとても重要です。会計の負担を最小限にして、ビジネスの効率を最大限にするには、やはり会計ソフトを使ってある程度自動化してしまうのが一番だと思います。

自動化して空いた時間をビジネスに充てれば業績アップも期待できます。そこで利益が出せれば、今度は税理士を雇ってもっと会計を楽にしても良いでしょう。基本的に社長は数字を入力するのが仕事ではなく、出てきた数字から経営判断を行うのが本来の仕事ですから、それが一番健全な姿なのです。

特に、最近独立した、あるいはこれから独立起業するという人は、仕事のスキルは高くても会計は素人だという方が大勢いらっしゃいます。青色申告で始められる方でしたら、特別控除も受けられます。きちんとした事前の届け出ができれば、納税する金額もずいぶん変わってくるのです。そうした内容を最初は知らなくても仕方がありません。会計ソフトの使い方や簿記のアドバイスを受けるためにも、一度は税理士に相談していただいたほうが良いですね。

-ありがとうございました!

話者プロフィール

わみ会計事務所 税理士 和美智伸氏(所属 東京税理士会豊島支部)
昭和50年7月4日生 北海道出身
平成24年8月わみ会計事務所開業
「親切・丁寧・迅速」をモットーとしてわかりやすい会計・税務サービスを提供する。経営者の何でも相談できるパートナーであることを心がけ日々活動。著書「すぐ引ける○×式―278事例 解説付き― 消費税の課否判定集」(共著)

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