瀬戸内海に面した広島県は、古くから造船業が盛んな都市として知られている。広島大学大学院工学研究科 輸送・環境システム専攻は、造船学科からの流れを汲む専攻で、造船会社との共同研究を行う機会も多い。

広島大学大学院工学研究科 輸送環境システム専攻 構造設計研究室准教授 竹澤 晃弘 氏

広島大学大学院工学研究科 輸送環境システム専攻 構造設計研究室では、船の振動を抑える防振設計について研究を進めている。そこで検討されている新しい構造最適化手法に「トポロジー最適化」がある。 抜本的な性能改善が期待できるため大きな注目を集めている手法だが、検討が必要な要素が多く、既存の解析ツールでは対応が難しかった。

「トポロジー最適化研究に適したソリューションを探していた時に、同じ分野を研究していた近畿大学工学部(当時)の奥本泰久教授からご紹介いただいたもの、それがAltairのHyperWorksでした」と語るのは、同研究室にて「トポロジー最適化」研究を指揮する准教授 竹澤晃弘氏である。 今回は、竹澤氏が研究し普及を進める「トポロジー最適化」と、それを可能にするAltairのソリューションについて紹介しよう。

防振性能向上を実現するトポロジー最適化

一般的に、船の揺れと聞くと波や風などからの影響ばかりを考えがちになる。だが、主機(エンジン)や発電機などから発生する振動も、揺れの大きな要因となる。 このような振動による揺れを抑えるためには、発生源である主機や発電機の改良の他に、船殻(外郭や骨格等、機関を除いた船の構造主体)の構造を最適化が必要となる。「振動を伝えないために揺れてはいけない部分、逆に振動を吸収するために揺れて欲しい部分があります。必要な強度を保った上で、それぞれに最適な構造が何かを求める。それが現在、私が主に取り組んでいる研究となります」(竹澤氏) このような構造を最適化する方法の中でも、現在、竹澤氏が着目している方法が、最も自由度が高いと言われる「トポロジー最適化」である。

トポロジー最適化概略図:ある領域における最適な材料レイアウトを求める方法

この手法によって生み出される形状は、従来とは全く異なるものとなるため、抜本的な性能改善や大幅な軽量化が可能となる。

なお、常石造船株式会社との共同研究で行われた防振性能の検証によると、載貨重量5万8千トンの貨物船における発電機下の補強構造で、元の板厚を5/3倍しトポロジー最適化でレイアウトを見直すことにより、8%の軽量化と5%の防振性能の向上が実現できたとのことだ。

トポロジー最適化結果

振動応答を考慮した形状の最適化のためHyperWorksを採用

形状の自由度が高い「トポロジー最適化」を行うためには、どの振動数で揺れやすいのか、どんな速度で揺れるのかなど、様々な点を考慮した上で形状を求めなくてはならない。 だが、「当時利用していたソフトウェアでは、振動応答を考慮した上で形状の最適化を求めるための機能がありませんでした」(竹澤氏) そこで、それが可能なソフトウェアを探し求めていたところ辿り着いたものが、アルテアエンジニアリングが提供する構造解析用の∗汎用プリ・ポストシステム「HyperMesh」と、∗構造解析ソルバー「OptiStruct」だった。

「機能も豊富でやりたかったこともできそう。しかも、他の類似製品と比べても初期投資価格は半分くらい。だったら、試してみてもいいのではないか、と考えて導入することになりました」(竹澤氏) なお、先に紹介した検証結果は「HyperMesh」で作成したモデリングを、「OptiStruct」によって形状を最適化したデータによって求められたものである。 「船のように大きな構造物の場合、大規模な解析モデルを扱う必要がありますが、HyperMeshはこれを安定して扱うことができます。これは数あるソフトウェアの中でも特に優れた点だと感じています」(竹澤氏)

∗HyperMeshおよびOptiStructはHyperWorks製品群に含まれるソフトウェアである。

学生達が実証したアルテア製品の使いやすさ

機能の豊富さの他に、アルテア製品が持つ特徴として竹澤氏は「使い勝手の良さ」を挙げた。
「検証に利用するデータのほとんどは、私ではなく学生が作成しています。 当然、彼らにモデリングや解析のソフトを使った経験はありません。それでも、早い者であれば一週間くらいで使えるようになります。本来、最適化モデルの作成には大変な根気が必要です。学生にとっては大変な作業であるはずですが、最近は自分たちの手で最後までやり遂げる学生も増えてきている。これはアルテア製品が持つ、使いやすさと豊富なチュートリアルのお陰でしょう」(竹澤氏)

研究室風景

トポロジー最適化の更なる普及を目指して

トポロジー最適化で得られた構造は、どうしても複雑な形状となる。解析の結果で得られた最適解そのままの形状を部品化するのは現実的に難しい。
「ですが、最近話題になっている3Dプリンターは、かなり自由度の高い形状でも出力可能です。材料も、今では樹脂だけではなく金属も使えます。これまで不可能だった最適解の形状を、3Dプリンターからそのまま出力することも可能になるかもしれません」と竹澤氏は語る。
「私達が研究するトポロジー最適化を企業で製品開発に活用するには、アルテアさんの製品が欠かせません。言い換えるなら、アルテアさんの製品が普及すれば、産業界にトポロジー最適化も広がることになります。ですから、これからもどんどん発展していっていただきたいです」

これまでとは全く異なる新しい手法である「トポロジー最適化」。この手法の普及は、造船のみならず製造業全般に大きな変革をもたらすことになるだろう。今後の発展に、大いに期待したい。

アルテアエンジニアリング株式会社

1985年 米国ミシガンにて創立。日本支社設立は1996年。CAEソフトウェアである「HyperWorks」シリーズを中心に製品設計および開発を支援するためのプロダクトを提供ソフトウェア販売の他に近年は製品設計コンサルやカスタムソフト開発にも力を注ぐ。
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