世界最大級のデジタルマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo(アドテック東京)2014」が、9月17日(水)・18日(木)の両日、東京国際フォーラムにて開催されました。

マーケティングに携わるビジネスリーダーに向けた「デジタル時代におけるマーケティングのベストプラクティス」を提供するイベントである「ad:tech tokyo(アドテック東京)2014」では、6回目となる今回も様々なテーマについて議論が交わされました。「コンテンツマーケティング」「ネイティブ広告」「データ活用」「次世代型人材の育成」など、興味深いキーワードが浮かび上がった公式セッションから、SMMLabが参加したものをレポートします。初回の今回は、奇しくも共通のキーワードが取り上げられた2つの基調講演をご紹介します。

【Keynote:生活者の心を捉えるモバイルマーケティング】
Brian Wong (Kiip CEO)

Brian Wong (Kiip CEO)

初日のキーノートに登場したアチーブメント型広告事業「Kiip」共同創業者/CEOのブライアン・ウォン氏は23歳!アプリやゲーム内でのユーザーの行動に対して報酬を提供するモバイル・リワード・ネットワークを構築していますが、その原点は子供の頃から大好きだったゲームで自身が感じた達成する喜びの瞬間=「モーメント」の体験だったと言います。

中国系カナダ人としてバンクーバーに生まれたウォン氏は14歳で高校を卒業、18歳でコロンビア大学を卒業し、ソーシャルニュースサイト「Digg」で働き始めますが、1年足らずで解雇されてしまいました。そして、その傷心旅行の旅先で若者がiPhoneゲームに夢中になる姿を見て、Kiipのアイデアを思いついたのだそうです。

ゲームやその他のアプリを起動中に、ステージをクリアする、レベルが上がる、ハイスコアを出す、ポイント達成等、アプリ側で規定した目標値に到達した際(=「アチーブメントモーメント」)、ユーザーには達成感や幸福感が芽生えます。Kiipは、そのモチベーションの高いタイミングに、ユーザーメリットのあるクーポンやサンプル、プレミアムコンテンツ等の広告を露出させる事で、広告主とユーザーの間に深いエンゲージメントを醸成するというサービスですが、ブライアン氏は、日常のあらゆる場面でユーザーのモーメント(特別な感情が起きている瞬間)をとらえることが可能になってきているといいます。

参照:デジタルガレージ、スマホ向け広告プラットフォームのKiipに出資
http://www.garage.co.jp/ja/pr/2012/09/120925.html

モーメントは人生の節目だけでなく、毎日の生活の中で数多く起きています。ユーザーの行動やニーズを把握し分析することで、新しい「モーメント」を発見することが出来ます。そして、「モーメント」の背景にあるユーザーの行動・ニーズに合わせて、リワードを設計すれば、広告でありながら好感度が高いアプローチが可能になります。また、モーメントにおけるリワードが、「パーミッション」の新たな形を作り出したとも言えます。

ユーザーが心を開きやすい瞬間=モーメントを捉えて、ユーザーの文脈にあった広告配信を行うことで、Kiipは「広告」を喜ばれる「ご褒美」に変えたのです。

参考:Win In Your Customer’s Mobile Moment
http://solutions.forrester.com/mobile/landing-61Q6-3212NK.html

Kiipは2012年12月に日本での展開も開始しましたが、ウォン氏は日本で、多くの人がスマートフォンで買い物し、コンビニでクーポンコードをかざす光景を目にして大変驚き、モバイル大国日本に大きな可能性を感じたと言います。

モバイルデバイスでは、ゲーム以外にもフィットネス、料理、音楽、ヘルスケアなど様々なアプリに「モーメント」が存在しています。そして今後、ウェアラブルデバイスはもちろん、自動車や家電などがネットワークに繋がるコネクテッドデバイスによって、さらに多くの「モーメント」が生まれるだろうと締め括りました。

【Keynote:リアルタイムの瞬間を捉えて、マーケティングインパクトに繋げる】
Melissa Barnes (Twitter Inc. Head of Global Brands)

Melissa Barnes (Twitter Inc. Head of Global Brands)

2日目のキーノートには、米Twitterのグローバルブランドチーム責任者であるMelissa Barnes(メリッサ・バーンズ)氏が登場。企業のTwitter活用において、4つのモーメントが重要だと話しました。

米国アカデミー賞授賞式の写真が、司会者のエレンの呼びかけによって3,400万回もリツイートされるという出来事がありました。その様子が話題となり、さらに反響が増え、最終的には42億ものリーチが生まれたと推測されました。

またTwitterユーザーの54%はブランドに関するツイートを見て行動を起こしたという調査データもあり、バーンズ氏はこうしたTwitterの情報拡散パワーを企業が活用するためには、4つのモーメントをうまくとらえることが重要であるとして、いくつかの成功事例を紹介しました。

1. Everyday : 日常生活をきっかけにブランドとユーザの接点を作る

例えば、#tired(疲れた)や#hungry(お腹がすいた)でツイート検索すると、毎日ある決まった時間にツイートが増えるサイクルを見つけることが出来ます。そのタイミングにブランドメッセージを上手にツイートすれば、ユーザーの深層心理に働きかけることが出来るでしょう。

英国ノキアでは朝の通勤時間帯に「Disappear」というキーワードが増えることを発見しました。これは通勤電車などの混雑している状況で周りの人が消えてしまえばいいという欲求があると分析し、タップした対象を消してしまうことが出来るカメラアプリを作ったところ、アプリもそれを活用したツイートも大変話題になりました。

2. Campaign : 広告キャンペーンで認知を広める

5人に4人がTwitterを使いながらテレビを視聴したことがありますが、Twitterを使いながらテレビを見ていた人のほうが感動が大きく、視聴したCMを1.6倍も覚えているというデータもあります。

メルセデス・ベンツはワールドカップでギリシャ戦の勝利に貢献した本田選手とのコラボCMをツイート。イベントの体験モーメントを逃さない、リアルタイムなツイートによって、ユーザーとブランドが感動を共有することに成功しました。

3. Reactive : ブランドとユーザがコミュニケーションの機会を持つことで関係を深める

男性化粧品ブランド AXE(アックス)では、#KissForPeaceというキャンペーンで、平和のためにキスをしている写真を募集。応募された画像をタイムズスクエアのデジタルサイネージに配信し、ツイートで紹介したところ、喜んだユーザーがコメントを返すといったコミュニケーションが生まれました。

4. Live : スポーツなどのイベントを通じてブランドとユーザの関係を育てる

TwitterとTVの組み合わせは特にスポーツイベントとの相性がいいことが分かっています。ハイネケンでは全米オープンテニスの名場面として、錦織選手の活躍を動画で紹介したツイートをプロモートすることで、高い広告効果を実現しました。

ユーザーの心理が高揚する瞬間=モーメントを見逃さず、そこに自社のマーケティング・ストーリーを重ねて体験価値を高めることで、ブランドとのエンゲージメントに繋げていくというのが、バーンズ氏の語る4つのモーメントの基本的な攻略ポイントだと言えるでしょう。

今回のキーノートでは、1日目のKiipブライアン氏と2日目のTwitterバーンズ氏が共通して、「モーメント」というキーワードをテーマにしていたのが印象的でした。スマートフォンの普及によって、パーソナルなデータがリアルタイムで活用できるようになったことで、マーケティングにおいてユーザーの心理や行動を深く理解し、心が動く「瞬間」を逃さないことが重要になってきているということだと思います。

そして、その瞬間においてユーザーの共感を得るためには、「コンテンツ」の「ストーリー」性がより重要になってきているというのは、昨今のコンテンツ・マーケティングやネイティブ広告隆盛の文脈にも繋がる、とても興味深い示唆でした。

引き続きSMMLabが参加したセッションのレポートをお届けする予定ですので、次回もどうぞお楽しみに!

本稿は、ソーシャルメディアマーケティングラボにて掲載された記事を転載したものです。

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