まったく新しい物性を示す化合物が見つかった。重元素イッテルビウム(Yb)化合物で、極低温の環境で磁場が低いと、まだら模様に電子が凍るような現象が起きることを、日本原子力研究開発機構原子力科学研究部門の神戸振作(かんべ しんさく)グループリーダーらが発見した。
極低温で磁場に伴って起こされる特異な電子状態で、今までに観測されたことのない現象の予想外の発見だった。理論と実験の両面に刺激を与え、新しい材料開発にも道を開く成果といえる。フランス原子力庁グルノーブル研究所との共同研究で、9月22日の英科学誌 ネイチャーフィジックスのオンライン版に発表した。
水を冷やすと凍って氷となるように、低温では物質の中の電子は、いわば凍って超伝導などのさまざまな状態をとる。希土類でレアアースのイッテルビウムとロジウム、ケイ素の化合物であるYbRh2Si2は、極低温で磁場によって電子状態が大きく変わることがドイツのグループによって最近報告され、注目されていたが、詳しい変化は謎だった。
グルノーブル研究所がまず、非常に均質で高純度のYbRh2Si2単結晶を合成した。それを茨城県東海村の原子力機構の核磁気共鳴法(NMR)装置に持ち込んで、電子状態を測定した。絶対温度1K(-272℃)付近以下で、4テスラ以下の磁場なら、水と氷が共存するように、ふたつの異なった電子状態がまだら模様になって共存することを初めて見いだした。
磁場を7テスラほどまで上げると、電子状態は均一に戻った。次に磁場を4テスラ以下にすると、まだら模様の電子状態が再び出現し、磁場を下げるほどまだらの領域が増えた。その時の磁場がこの化合物の電子の振る舞いを決定していた。まだら模様の電子状態では、動きにくく、原子の位置にへばりついた局在的な電子と、あちこち動きやすく、遍歴的な電子が共存していた。一方、均一の電子状態は遍歴的であった。このふたつの状態ではイッテルビウムの原子価数が異なっていると考えられる。また、温度を1Kの極低温から上げると、磁場の高低にかかわらず、電子状態はずっと均一だった。
神戸振作グループリーダーは「極低温で磁場を変化させて測定できる高性能のNMR装置を手作りで開発していたので、新現象を発見できた。磁場を下げると、均一な遍歴的電子が、局在的と遍歴的電子が混在するまだらな状態に変わったのには驚いた。想像もしなかった新現象で、重元素系固体物理学の重要な発見として意義は大きい。電子が動きにくいまだら模様がなぜ出現するか、量子臨界現象の新たな理論的な解明が課題だろう。磁場に伴う電子状態の転換は、磁場による電子回路の開閉や価数分離・精製技術など、新しい材料開発につながる可能性もある」と話している。