植物が葉と根の間でシグナル分子を交換しあって、双方向の調節をしている様子が初めてわかった。マメ科植物で植物ホルモンのサイトカイニンが、根から輸送される糖ペプチドの情報を受け取って葉で合成され、葉から根に長距離移動して根粒の数を制御していることを、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の大学院生の佐々木武馬(ささき たけま)さんと川口正代司(かわぐち まさよし)教授らが発見した。
この発見は、植物の地上の葉と地下の根の長距離コミュニケーションに関する理解を深める手がかりとして注目される。理化学研究所環境資源科学研究センターの榊原均(さかきばら ひとし)グループディレクターらとの共同研究で、9月19日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
マメ科植物は、根の根粒に根粒菌を共生させて、大気中の窒素を固定し、養分として利用して、土壌中の栄養分が乏しい荒地でも繁殖できる。一方、根粒がつくられすぎると、窒素固定などに過剰なエネルギーがかかり、植物の生育に悪影響が出る。このため、マメ科植物は、根粒の数を適正に保つ仕組みを進化の過程で獲得してきた。
研究グループは、その仕組みの解明に取り組んだ。まず、根粒菌が感染したことを地上部の葉に伝える長距離シグナル分子として、CLE-RSという糖ペプチドを昨年見つけた。葉から根へと情報を伝達する仮想のシグナル物質は1985年にダイズで予想されながら、その実体は謎に包まれていた。
マメ科のミヤコグサで、根粒の数が抑制された形質転換体 (CLE-RS1/2過剰発現体)、CLE-RS糖ペプチドを葉で受け取れずに根粒が過剰形成される変異体 (har1変異体)、正常な野生株の地上部における38種類の植物ホルモン量を測って比べた。この結果、地上部におけるサイトカイニン前駆体の量がこれらの植物間で有意に異なり、サイトカイニンが根粒の数を制御する長距離シグナルの実体として浮かび上がった。
サイトカイニンを地上部から与え、根粒の形成数を計測したところ、サイトカイニンは根粒形成を減少させた。同位体でラベルしたサイトカイニンが根に運ばれて、長距離シグナル分子として働きうることも確かめた。変異体の実験も含め一連のデータを総合して、サイトカイニンが葉から根に運ばれ、根粒の数を抑制していることを突き止めた。
川口正代司教授は「植物は地上部と地下部のバランスが維持されて成立している。マメ科植物の根粒の制御に、葉と根が互いにシグナル分子をキャッチボールして、双方向の遠隔制御をしていることが今回わかった。根粒菌の感染を葉に伝える長距離シグナル分子の糖ペプチドを発見したことが、この研究の突破口となった。葉と根の間にある交互の長距離コミュニケーションは、植物の生活を考えるのに重要な視点になるだろう」と話している。