海洋研究開発機構は9月16日、熊野灘沖の南海トラフに展開した「地震・津波観測監視システム(DONET)」で得られる観測情報の活用の可能性を探るため、DONETの観測情報を和歌山県と三重県尾鷲市、中部電力に刻々と提供する実証実験を始めた。3者とは昨年、それぞれ協定を締結していた。「DONET情報伝送システム」の初期版が完成して運用に入った。

図1. 実証実験を始めたDONET情報伝送システム(提供:海洋研究開発機構)

実証実験では、和歌山県と尾鷲市危機管理室、中部電力がそれぞれDONET観測情報をリアルタイムでモニターし、そのデータを基に津波情報として適切に活用できるか、共同で研究する。DONETの情報で津波計算結果の精度を検証し、海底に張り巡らした大規模な地震・津波観測網のデータを時々刻々と提供していく試みの始まりとして注目される。

図2. DONETの設置場所(提供:海洋研究開発機構)

和歌山県は早期津波対策、尾鷲市は地域住民の早期避難誘導、中部電力は海岸部にある発電所の安全対策の強化を目的としている。南海トラフなど沖合のプレート境界で発生する巨大地震の際は、DONETの観測情報を適切に使えば、陸地の観測に依存した従来に比べ、津波を最大十数分早く検知でき、実際に津波が到達するまでの間の迅速な防災・減災対策につながると期待されている。

DONETは尾鷲市古江町の陸上局から、紀伊半島の沖合約125km先まで総延長約250kmの基幹ケーブルをループ状に敷設し、途中5カ所の拡張用分岐装置にそれぞれ4つの観測点が接続された本格的な海底の地震・津波観測監視システムで、2011年から観測を始めている。各観測点は、地震計や津波を検知する水圧計などで構成され、水深1900m~4300mの海底に設置されている。

海底ケーブルで陸上から電力が供給され、海底の地震動や水圧変動などのデータは光ファイバーを通じてリアルタイムで陸上局へ送られている。海底のリアルタイムデータは、陸上局から専用回線で海洋研究開発機構横浜研究所や防災科学技術研究所、気象庁に配信される。DONETは5月30日に障害が発生し、現在は5台のうち4台の拡張用分岐装置(16観測点)で観測している。現在、四国沖に同様のシステムをDONET2として構築中で、16年3月に完成予定だ。

海洋研究開発機構の地震津波海域観測研究開発センターの高橋成実(たかはし なるみ)センター長代理は「DONETは東南海地震の予想震源域に聴診器を当てるシステムで、南海トラフの監視に重要な役割を果たす。研究だけでなく、地域の人々に使ってほしい。今後も地域の人々と話し合って、ニーズに合わせた情報を提供し、防災に役立ててもらいたい」と地域連携の姿勢を強調している。

関連記事

「東北沖の海底プレート内で津波地震発生の恐れ?」