たった1つの遺伝子がイネにさまざまな有用機能を付与することがわかった。イネのヘムアクチベータータンパク質遺伝子HAP2Eがそれである。その過剰発現が、植物の病原細菌やカビ、塩害、乾燥への抵抗性をもたらし、光合成量や分げつ数も増大させる多様な機能をもつことを、愛媛大学農学部の西口正通(にしぐち まさみち)教授と農業生物資源研究所(茨城県つくば市)の市川裕章(いちかわ ひろあき)上級研究員らが発見した。
今後、この遺伝子を利用して、植物病害に強く、塩害や乾燥地帯での栽培を可能にして、人口増大に伴う食料不足に貢献すると期待される。21世紀の「緑の革命」につながりうる作物の分子育種に役立つ遺伝子になる可能性があるという。8月29日の英科学誌Plant Biotechnology Journalオンライン版で発表した。
最近盛んになった分子育種では、数万種類の遺伝子から、有用形質を付与する遺伝子を探し出すことがまず重要である。なかでも特定のDNA配列に結合して、標的となる遺伝子の発現を制御する転写因子は生物に普遍的に存在し、分子育種の素材になる。
西口正通教授らは、ヘムアクチベータータンパク質(HAP)と呼ばれる転写因子のうち、HAP2 タンパク質の遺伝子をイネから単離した。次に、このHAP2E遺伝子を過剰に発現するイネを作り、その表現型や植物病原体感染への抵抗性、耐塩性、耐乾性などを調べ、いずれにも優れた多様な機能をイネに付与することを見つけた。
HAP2E遺伝子の過剰発現イネの優れた機能は、イネ白葉枯病といもち病への強い抵抗性、塩分が高かったり乾燥したりする環境で育つ耐塩性と耐乾性、対照となるイネ品種の日本晴に比べて1.5倍の光合成速度、分げつ数の1.5~1.7倍への増加など多岐にわたった。
西口正通教授は「これほど多様な有用な機能をもたらす転写因子はこれまでなかった。普通は過剰発現でマイナスの影響が目立つが、一見して今のところ、プラス要因ばかりなのに驚いた。イネ病原体の細菌やカビなどに効く点でインパクトは大きい。干ばつや塩害で作物が育たない地域でも、栽培できるようになるので、グローバルに貢献し、食料問題の解決にも寄与できるだろう」と話している。