産業技術総合研究所(産総研)や東京大学(東大)などの研究グループは9月16日、運動や記憶に関する情報伝達を司る重要な機能性たんぱく質「ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)」1分子の3次元分子内部運動を、100μsの時分解能かつピコメートルの精度で、動画として観察することに成功したと発表した。
同成果は、東大大学院新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授、高輝度光科学研究センターの関口博史 博士、産総研 創薬分子プロファイリング研究センターの久保泰 副研究センター長、兵庫県立大学 大学院 生命理学研究科の宮澤淳夫 教授、東大大学院新領域創成科学研究科の岡田真人教授らによるもの。詳細はNature Publishing Groupの電子ジャーナル「Scientific Reports」オンライン速報版に掲載された。
nAChRは、神経伝達物質「アセチルコリン(ACh)」を受容することで分子構造の中心部分が開口し、それによって惹起されるイオンの流入によって細胞の興奮性を調節すると言われており、これまでの研究から電気生理的測定によってチャネルの閉、開、および脱感作状態を取ることが知られていたものの、ゲーティング過程の各状態に移行する分子機構は分かっていなかったという。
そこで研究グループは今回、現在、世界最高クラスの精度と速度を誇る1分子動画計測手法である「X線1分子追跡法(Diffracted X-ray Tracking:DXT)」を活用して、100マイクロ秒/frameの時間分解能でnAChRの観察を行ったという。その結果、AChの結合に伴ってねじれ運動と傾き運動の2つの回転軸の運動が活性化されること、またAChの受容体への結合を阻害する毒素が存在する条件下では、これらの運動が不活性化することが判明したほか、先行研究では、決定できなかった脱感作状態が、αサブユニットの異常な運動由来であることも突き止めたという。
なお、研究グループでは、副作用のない薬が創出可能となるアロステリック創薬の実現には、分子内部動態情報の取得が必須であり、特に、nAChRを構成する複数種類のサブユニットすべてが創薬の標的となっているため、今回の成果は非常に重要であるとの考えを示しており、副作用のないアロステリック創薬に、重要な基盤技術を提供するものと期待されるとコメントしている。