農業生物資源研究所(生物研)などの共同研究グループは9月12日、極度の乾燥条件に耐えうる能力を持つネムリユスリカのゲノム塩基配列を解読し、干からびても死なないネムリユスリカに極限的な乾燥耐性をもたらす遺伝子多重化領域と乾燥時特有の遺伝子発現調節機構を発見することに成功したと発表した。
同成果は生物研、ロシア・カザン大学、沖縄科学技術大学院大学、基礎生物学研究所、金沢大学、ロシア・モスクワ大学、ロシア物理化学医学研究所、米国・ヴァンダービルト大学らの共同研究によるもので、英・科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。
ナイジェリア北部に生息するネムリユスリカの幼虫は、半年以上続く乾季を生き延びるために、いったん乾燥状態になり、半永久的に代謝を停止させることが可能できる。しかも、水を吸収すると約1時間でこの状態から覚醒し、発育を再開する。さらに、乾燥状態にあるネムリユスリカの幼虫は、高温(90℃)、低温(-270℃)、放射線(10 kGy)、化学物質(アセトンやエタノール)などに曝しても完全な耐性を示す。宇宙空間に 2 年以上放置しても蘇生可能な状態を維持出来ていたという報告さえある。
同研究チームはこの極限的な耐性の分子メカニズムを知るために、ネムリユスリカのゲノムを解析し、近縁種であるヤモンユスリカのゲノムと比較したという。その結果、ネムリユスリカのゲノムにしかない遺伝子が多重化した領域を発見。さらに、ネムリユスリカに特有な乾燥応答性の遺伝子発現調節機構の存在を確認した。多重化領域には抗酸化因子や老化タンパク質修復酵素、水と置き換わる効果をもつLEAタンパク質など、生体分子保護機能をもつ遺伝子が存在していたという。
LEAタンパク質は今まで植物でしか発見しておらず、種の壁を越えてネムリユスリカのゲノムの中に入ったと考えられる。これらの事実から、ネムリユスリカはその進化の過程で遺伝子に「異常」がおきたことで極限乾燥耐性を獲得したと結論付けられた。
同研究チームは「極限的な乾燥耐性をもたらす遺伝子を利用することで、ヒトのiPS細胞や家畜の受精卵及び血液などの常温乾燥保存法の開発促進が期待される」とコメントしている。