消費税率10%に加えて、軽減税率、マイナンバーと、2015年にはかなり大規模な制度改正が施行される気配が濃厚となっている。前回以上の混乱も予想される制度改正に備えるために、何が必要なのか? 株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC) 取締役 大原 泉氏に話を伺った。
-2015年10月に消費税率10%への引き上げが予定されていますが、2014年4月1日に施行された消費税率8%のときはどのような状況でしたか?
大原氏: 消費税率が5%になったのは1997年4月1日。そして消費税率8%が適用されたのが2014年4月1日ですから、実に17年ぶりの税率改正となりました。この年月の間に、消費税が無かった時代から消費税率3%へ、消費税率3%から5%への切り替えを経験してきた方々の多くが、すでに現役から引退なされていたのです。ですから、消費税率5%に長年慣れていたスタッフで本番を乗り切らなくてはなりませんでした。要するに、消費税率の変更は始めての経験だったのです。
われわれとしては、すでに2013年夏ぐらいの段階で、消費税率の引き上げに関して留意すべき点などが見えていましたから、積極的にお客さまへ喚起していきました。この問題を大々的に取り上げて全国15カ所で開催した「奉行フォーラム2013」は、全てが満員で増設が追い付かなかったほどの注目度でした。
その甲斐あって、事前準備に余念が無かった企業さまは、余裕を持って消費税率8%への切り替えが行えました。しかし、そうでない方々もまた大勢いらっしゃったのが現実です。
-混乱してしまった企業が陥りがちな傾向はありましたか?
株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC) |
大原氏: 一番多かったのが社内マニュアルを作成していなかった企業さまです。5%と8%では数値が違うというだけでなく、例えば電車交通費をICカードで支払った場合と現金で支払った場合で運賃が微妙に変わってきます。そこで、社内マニュアルに「社員は交通費を支払うときにICカードを利用すること」などのルールを設けておけば、そうしたケースにも対処しやすくなります。
また、4月1日の施行開始を目前に、消費税率5%のうちに物品などを購入しようと3月に駆け込み需要が起こりました。その結果、3月末に納品が間に合わず4月にずれ込んでしまうということも実際にかなりの件数で発生しました。そうなった場合、税率をどう扱うのか、消費税が多くかかった場合、どちらが負担するかといった問題が発生します。これが経理をさらに複雑にしたというわけです。
もう一つ、よくご相談を受けたのが締め日についてです。月末締めでしたら切り替えも多少楽ですが、それ以外の日付、例えば20日締めの場合は締め後の10日間は消費税率5%での運用、月が変わった4月1日からは8%での運用と、ひと月に二つの税率が存在する複数税率での会計処理をしなければなりません。弊社のシステムでしたら税率は施行されたタイミングに自動で切り替わりますが、それに対応していないシステムの場合は手作業が発生してしまったりもします。
-2015年に予定されているのは消費税率10%だけでなく、軽減税率もあると思うのですが、それに対してはどのようにお考えですか?
大原氏: まだ施行されていませんし、品目も決まっていない状況ですが、あらゆるケースを想定して準備を進めています。10%への税率アップだけでしたらすでに皆さまはご経験があるので対応できると思います。しかし、これに軽減税率が加わるとすればわれわれのパッケージシステムでもかなりの影響が出るはずです。
例えば軽減税率を運用する場合、インボイス形式になるかもしれないというところです。軽減税率における証明書のような役割としてインボイスが使われるケースがあれば、帳票もそれに合わせたデザインが必要になります。日本では貿易業の方々しか経験が無いと思いますが、それを一般企業でも使うとなればシステム的な対応だけでなく、導入企業さまで実施する社内マニュアルの策定も必要です。
システムとしては、軽減税率が適用になる品目とそれ以外を比較したいといった場合に精査しやすいように整理して表示できるような仕組みを検討しています。
-2015年に予定されている法制度の施行には「マイナンバー」もありますが、こちらの対応はいかがでしょう?
大原氏: マイナンバーについても想定できる範囲の洗い出しをしていますが、どこまで影響があるかまだわからない部分もあります。しかし、例えばシステムが印刷する帳票類や提出書類にはこの番号が出力される欄が必ず発生することが予測されますので、設計もやり直す必要があると思います。
これはすべての弊社製品に言えることなのですが、制度改正に対応したうえで、さらにお客さまのニーズや要望をくみ取って適した操作画面や出力レイアウトへ変更を行っています。より使いやすく、よりわかりやすくするにはお客さまのご要望は必須なので、消費税率10%、軽減税率、マイナンバー、すべてを含めてそのポリシーで対応していくことになるかと思います。
-消費税率10%の施行だけにとどまらなかった場合、現状のシステムでは到底追い付かないケースが考えられそうですね。
大原氏: その通りです。すべての企業さまにとって一番大きな課題となるのが、現状の会計システムで軽減税率対応、マイナンバー対応の製品が無いという部分です。この場合、いずれにしてもリプレースかカスタマイズが必要になります。そうなるとハードウェア要件も変わってくる可能性があり、PCごと刷新しようというケースも多くなると思います。
これに関しては、2014年4月の消費税率8%適用のタイミングが、ちょうどWindowsXPのサポート切れ問題と重なっていたことを思い出してください。多くの企業さまがPCの入れ替えを検討された、または実行されたと思いますが、これにはOSも最新のものに変更されるという側面があります。PCの操作を覚えるのと共に消費税率8%対応を始めなくてはならず、二つ同時進行したケースもありました。この場合、ユーザーさまの負担が大きく、結果的に業務効率が落ちることもあったのです。
2015年10月に消費税率10%だけでなく軽減税率、2016年1月マイナンバーも施行されれば、大きな混乱も予想されます。その場合、どれだけ早くアクションを起こせるか、制度の改正に備えられるかで、インパクトの度合いは大きく変わってくるのです。
-企業としては、どれぐらい前から考えておくべきでしょうか?
大原氏: できれば、想定できる留意点を洗い出したり、社内マニュアルを作成したりするには、8~10カ月前ぐらいから始めるのが理想でしょう。それに加えてデータ移行や帳票切り替えに1、2カ月間は旧システムとの併行運用も発生する可能性があります。ですから、しっかりと余裕を持たせるには1年前から始めても良いぐらいです。実はこの余裕を持った対応というのが大切なのです。消費税率が上がるというだけでも、必ずイレギュラー処理が発生します。その時になって慌てないような事前準備の期間はどうしても必要となります。
また、事前準備という部分では、サポート面で優遇を受けられる場合があります。弊社製品の「奉行i8シリーズ」や「奉行VERP8」をご導入いただいているお客さまの場合、保守サービス(OMSS)に加入いただいていれば、税制改正やマイナンバーの導入といったシステム変更時にアップデートされた対応版をお送りします。対応済みの新システムで事前の準備ができるので、それだけでも早期対応が可能となります。こうしたサービスはわれわれのようなパッケージシステムをお選びいただく際の大きなメリットだと思います。
また、これから業務システムをご検討されているお客様にも、制度の改正に対応したシステムを使い始めることができるのは、プラスであると考えます。
-早めに準備するには知識も必要ですが、今年も奉行フォーラムは開催されますか?
大原氏: もちろんです。昨年も大好評でしたから、2014年も10/9の名古屋を始めとして全国で開催していく予定です。今回お話しした消費税率10%への対応、軽減税率、マイナンバーの動向や対応についての知識が必要なら「基調講演」にまずは注目してください。制度改正時の細かな留意点や想定しておきたい要項などについてのセミナーが開催されます。
そのほか、財務、総務、販売管理などに役立つ「担当業務別おすすめセミナー」、メンタルヘルス対策、人材育成、でんさい(電子債権)対応などをテーマにした「トレンドセミナー」なども用意しています。奉行フォーラムは事前登録制なので、開催場所やスケジュールをご確認のうえお早めにご応募ください。備えあれば憂い無し。企業の皆さまには、早めの対応で落ち着いた制度改正を向かえていただきたいですね。
「奉行フォーラム2014」
消費税率10%改正・軽減税率・マイナンバーという来たる大きな制度改正に対し、今から考えておくべき「備え」と、制度改正前の今だからこそ考えておきたい「業務改善」、 そして、今後も加速するクラウド環境への対応をテーマに開催される。
・開催日程:10/9~、名古屋、大阪、仙台、東京、福岡など全国11会場で開催