名古屋大学は9月10日、微生物が一度に多くの化合物を作り出し、その中から目的に応じた分子を使い分ける発酵という方法に学んだ「合成発酵」という概念を提案し、有用な有機分子を迅速に見いだす方法論を確立したと発表した。

この研究成果は同大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)およびスイス連邦工科大学のジェフリー・ボーディ 教授らによるもので、英化学誌「Nature Chemistry」に掲載された。

「合成発酵」という方法は、2006年にボーディ教授が発表した KAHAライゲーションという化学反応によって実現したもの。従来の有機合成反応では、有機分子同士をつなぐための「試薬」と呼ばれる第3の存在が必要で、反応後には有機分子と試薬を分ける「精製」という行程が必須だった。一方、KAHAライゲーション反応では、ケト酸およびヒドロキシルアミンを混ぜるだけで、試薬を一切使用することなく、ペプチドやタンパク質の骨格を支えているアミド結合を作ることができるという。

今回、ボーディ教授らは、23種類のケト酸とヒドロキシルアミン類を順番に混ぜ、約6000種類のペプチド類を合成し、その中にC型肝炎ウィルスの増殖を制御するタンパク質に対して活性を示す化合物を見出すことに成功した。

「合成発酵」は、混ぜるだけで有用な有機分子群を作り出す非常に簡便な方法なため、新しい医薬品の創出に貢献するだけでなく、家庭や農家など身近な場所で、有用な物質を迅速に合成可能な手法になることが期待されるという。

「合成発酵」によるペプチド類の合成と分析。非常に簡便な方法なため将来的には身近な場所で有用な物質を合成できるようになるかもしれない。