場所にとらわれることなく仕事をしたい……これは、多くのビジネスパーソンが描く理想のワークスタイルだが、これを実現する手段としてあらためて注目されているのが「テレワーク」である。政府も日本の成長戦略を具現化する施策として「女性の活躍推進」を掲げているが、テレワークはその基盤として重要な役割を果たす。しかし、ネオマーケティングがこのほど実施した調査によると、このテレワークの導入には様々なハードルが存在することが判明した。本稿では、調査結果やテレワークマネジメント/ワイズスタッフ 代表取締役 田澤由利氏による意見をもとに、現在のテレワーク事情と今後について探る。

ワークスタイル多様化への対応は必要だが……

同社が実施したのは、「テレワークに関する調査」で、調査方法はWebアンケート方式。同社が運営するアンケートサイト「アイリサーチ」の全国の登録モニター(20~59歳の男女)のうち、企業経営者や人事・総務担当者(有効回答数: 300)を対象として実施されたものだ(調査期間: 2014年7月25~26日の2日間)。

今回の調査では、働き方(ワークスタイル)の多様化への取り組みについて、多くの企業がその必要性を感じてはいるものの、労務管理の問題やセキュリティ面でのリスク、コミュニケーションの希薄化といった懸念などから、あまり導入が進んでいないといった実情が見えた。

以下、その内容を詳しく紹介しよう。

「Q1.企業に勤める会社員であっても、働く場所や働く時間に縛られないなど、様々な働き方の選択肢が実現する『働き方(ワークスタイル)の多様化』についてお伺いいたします。あなたは、この様な『働き方(ワークスタイル)の多様化』の推進が必要だと思いますか。(単数回答)」というアンケート項目については、半数以上となる57%のユーザーが「そう思う」と回答。「とてもそう思う」(14%)と合わせると、実に7割がワークスタイルの多様化を必要としていることが判明している。

「働き方(ワークスタイル)の多様化」に関する回答結果

そのメリットについては、「業務効率・生産性の向上」の回答割合が最も高く(57.7%)、次いで「多様な人材の維持・人材確保」(44%)、「コスト削減」(39.7%)という結果となっている。今回の調査対象は経営者や人事・総務担当者となっているが、つまりこれは、「企業としてはそのメリットを十分に認識している」と言ってもいい状況だ。

「働き方(ワークスタイル)の多様化」のメリットに関する回答結果

震災後も進まぬワークスタイル多様化への取り組み

ワークスタイルの多様化に対する企業の取り組みは、2011年に起きた東日本大震災以降、機運の高まりを見せた時期がある。だが今回の調査によると、「必要性を感じているが、実施していない」という回答が半数近く(45.7%)に上り、実際には、震災以降も「導入が進んだ」とは言えない状況であることが浮き彫りとなっている。

「働き方(ワークスタイル)の多様化」の取り組み状況に関する回答結果

都心部においては、喫茶店や電車内などの非オフィスエリアでノートPCやタブレット端末を開いて仕事を行っているビジネスパーソンの姿をよく見かける。しかし今回の調査では、回答者の約半数が「働く場所に縛られずどこでも働けるモバイルワーク」の導入が「難しい」とするなど、このような働き方を "制度" として導入することについては、多くの企業が抵抗を感じていることが伺える結果となっている。

導入が難しいと考えられている「働き方」に関する回答結果

ワークスタイル多様化のカギ「テレワーク」の実情

冒頭でも触れたように、ワークスタイル多様化への取り組みとして重要なカギとなるのが「テレワーク」(ITを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方)である。しかしながら、ここでも「社員の労務管理が難しくなる」(55%)、「情報漏えいなどのセキュリティ管理」(41.7%)、「社員同士のコミュニケーションの鈍化」(38%)といった点を懸念する回答が多く寄せられており、これらの障壁をクリアすることがテレワークの導入を促進するための重要なファクターとなることは間違いないだろう。

「テレワークの導入・推進」のデメリットに関する回答結果

今回の調査では、上述の「社員同士のコミュニケーション」に関するユニークな調査が行われており、「.テレワークを実施する際に、内線番号で社員同士の通話ができると、社員同士のコミュニケーションがとりやすくなると思いますか。 (単数回答)」というアンケート項目が用意されている。

この項目に対する回答結果は、「そう思う」が53.7%と半数を超える結果となっており、ネオマーケティングでは「内線電話を活用して、社員同士のコミュニケーションを活発化させることが(テレワーク導入の懸念の)解決策の1つとなるかもしれない」と指摘している。

テレワークで「内線電話」が使えることについて寄せられた回答結果

実は、このような懸念を払拭するソリューションはいくつか存在している。例えば、NTTコミュニケーションズが提供する「Arcstar Smart PBX」では、PBXやビジネスホンをクラウド化することで、通信設備を持たずに、スマホを使ってロケーションフリーの内線化を実現できる。これによって、社外にいる社員と社員の内線電話で無料通話が可能となるほか、スマートフォンから会社の電話番号で発着信も実現できる。

また調査では、6割以上ものユーザーが「テレワークを実施する際に、どこにいてもスマホを使って会社の番号で発着信できるようになると、社外の人とのコミュニケーションがとりやすくなると思う」と回答したこともわかっており、実際に上述の「Arcstrar Smart PBX」のようなソリューションによりスマホを内線化することが、社員同士のコミュニケーションの鈍化を解決するカギとなることがうかがえる。

なお、今回の調査では「テレワークを実施することについて、あなたのお気持ちに近いものをお選びください。 (単数回答)」という興味深いアンケートも実施された。この項目に対するアンケート結果は、「外回りや出張が多い社員の業務効率化に繋がる」(66.7%)、「産休や育休明けの女性の職場復帰のサポートになる」(60%)、「より多くの女性人材の活用に繋がる」(58.7)となり、ビジネスパーソンのテレワークに対する期待の高さが伺えるものとなった。

テレワークに対する「気持ち」に関する回答結果

専門家はこう見る: わが国におけるテレワークの実態

株式会社テレワークマネジメント/株式会社ワイズスタッフ 代表取締役 田澤由利氏 (厚生労働省 在宅勤務モデル実証事業検討会 委員 / 総務省 地域情報化アドバイザー / 内閣府男女共同参画局 女性のチャレンジ賞受賞(2006) / 日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009」リーダー部門7位)

「テレワークは必要だが、ウチは難しい……」

テレワークの導入コンサルタントである"テレワークの専門家" 田澤氏は、企業に対してテレワーク導入のコンサルティングを行っている時に、このように言われることが多いという。

今回の調査結果にもあるが、田澤氏によれば、「セキュリティ」「労務管理」「コミュニケーション」への漠然とした不安が導入の壁となっているとのことだ。

しかし実際には、「セキュリティ」は仮想デスクトップやリモートアクセスといった環境を整備することで対策が可能であるほか、「労務管理」はWebタイムカード、「コミュニケーション」はWeb会議やチャット等々……ICTが進化したことで多くの課題を解決できるようになっている。

また田澤氏は、テレワークのコンサルティング現場でよく課題として挙げられるのが「電話でのお客様対応」だという。

常時デスクの前に張り付いているオフィスの環境と異なり、テレワークの場合は、お客様への対応が "折り返し対応" になってしまう可能性がある。結果としてサービスの低下を招くといった本末転倒なことになりかねない。

しかし、最新のITツールによってこの課題も解決できる。

上述の「Arcstar Smart PBX」のような仕組みを使うと、外部からかかってきた電話をテレワーク社員が自動的に受けられる。これによって「担当者不在」の状況が減るだけでなく、不在時の対応もスムーズになる。つまり、このようなソリューションは、「顧客満足度を高めるためのツールになる」(田澤氏)というわけだ。

田澤氏はテレワークの導入について、「これまでの考え方や仕事のし方を見直す契機」とし、企業を内部から強くする "企業戦略" として取り組むべき施策であると指摘している。