日本マイクロソフトは9月5日、都内ホテルで「マイクロソフト ジャパン パートナー コンファレンス 2014」を開催した。このカンファレンスでは、パートナーネットワークに加わっている企業に対して、同社の戦略や最新製品、販売促進支援策を案内している。
基調講演には日本マイクロソフト 代表執行役 社長の樋口 泰行氏が登壇。「モバイルファースト、クラウドファーストの実現に向けて」と題して、米国本社CEO サティア・ナデラ氏の方針を樋口氏が日本の事情を交えて説明した。
「CEO以外の本社の人間が来てもインパクトがないから、日本人がキッチリ日本語でお話しすることが大事だと思って、基調講演は全員日本人で」と語り、会場の笑いを誘った樋口氏は、日本法人としての好調ぶりを初めにアピール。2014年度(MSは7月から新会計年度がスタート)は、Windows XPからの乗り換えの需要が強く、特に法人市場では3年連続の2桁成長、過去最高の成長率を達成したという。
マイクロソフトでは、年間で国別に優秀な子会社を表彰する社内行事があり、日本マイクロソフトが3年連続で「TOP SUB AWARD」の年間最優秀国に輝いた。また、社内のみならず、官公庁からの信頼も厚いようだ。
「政府の方から、『消費税増税の駆け込み需要と共に、1~3月のWindows XP移行需要でGDPの押し上げに貢献した』と言っていただいた。実際に、日本のユーザーは良いものを長く使おうとしてWindows XPの利用率が世界一高かったが、この1年で一気に世界一低いシェアにまで下がった」(樋口氏)
しかし、Windows XPの時代とは異なり、今の時代はPCだけでは生き残れない状況となりつつある。タブレット市場で出遅れたマイクロソフトだが、1~3月の国内シェアは30.5%まで復調し、反撃ののろしを上げている。樋口氏は、遅ればせながら市場シェアを上げる状況を「マイクロソフトはいつも後出しじゃんけんだから」と自虐気味に話す。
「GUIが出来てからWindowsを出したように、エクスチェンジからSQLまで全部後追いだ。自慢する話でもないんですけど(笑)。我々がこうした力を持っているのは、パートナーの皆さまと共に、ビジネスとして成功してきた歴史があるから。タブレットとクラウドも若干遅れてるいるけど、マイクロソフトの"諦めない力"でキャッチアップしていきたい」(同氏)
CEOが変わってどうなるのか
2月にスティーブ・バルマーCEOからサティア・ナデラCEOに変わり、「コンシューマーは苦手な会社だけど、そこもクールに変わっていきたい」という方針を打ち出している。クラウド市場、とりわけOffice 365は前年比で5.5倍の高い成長率を見せるなどビジネス市場では盤石な基盤があるが故の方針とも言える。先ほども触れた社内の「年間最優秀国」に選ばれたことで、日本法人の発言権も向上しているようで「本社との連携も、日本企業の案件に対してうまく回るようになっている」(樋口氏)という。
サティア・ナデラ氏は、インドからアメリカへの移民で、グローバル感覚を持ち合わせており、アジアにも理解があるという。
「ナデラは性格が良く、意思決定が早い。特に良いのが『人の話を聞く』。もちろん、今までのCEOが聞いていないというわけではないですよ(笑)」と話す樋口氏は、ナデラ氏がそういう人となりだけでなく、しっかりとしたビジョンを持ち合わせていることを説明する。
「ワールドワイドのパートナーカンファレンスで彼が語ったのは、デジタルワーク、デジタルライフを支える企業になるということ。ワークだけではない、ライフだけでもない、両方にまたがって存在する企業になる。学生や社会人、オンとオフ、ワークとライフ、またがる形で関われるように。マイクロソフトが得意とするプロダクティビティをプラットフォームとしてを提供していく。人を中心としたプロダクトを、売れて終わるのではなく、ずっと使ってもらえるように、本当に好んで使ってもらえるようにしていく。直観的に使って楽しいと思われる製品を、そして自然とバイラル(伝染)するように使ってもらえるような製品を今後は出していきたい」(同氏)
概念的な話だけではなく、実際にナデラ氏就任後にはマイクロソフトとして新たな動きも見せている。例えば、自社サービスのマルチデバイス対応だ。かつては、Windowsにさえ対応していれば良いという状況だったが、現在はAndroidやiOSの動きも無視できない。「iPadを利用していて、Officeを使いたい、Androidを利用していてOfficeを、という需要があるならサポートするのが道理だ」として、サポートを行なった。
こうしたシームレスな環境構築は、製品作りにも適用されている。それが「Cloud OS」という考え方だ。
既存のIT資産を活かしたハイブリッドな環境を提供しようというもので、「すべてのクラウドがシームレスに繋がるとお客様の価値を最大化できる」メリットを強調する。
「パブリックからプライベートまで、すべてをシームレスに繋げる。投資の考え方でいうと、ポートフォリオに似てるかもしれない。クラウド上で管理しようとしていたデータを、セキュリティの観点から社内で利用しますと言うことになっても、クラウドからオンプレミスに容易に移行できるようにする」
そうした環境構築に企業はさいなまれているが、マイクロソフトとして、法人顧客のために会社全体で支援していくところが強みだと樋口氏は強調する。
「クラウドだけしかやっていないベンダーとかコンシューマーから派生したベンダー、Eコマースのついでにクラウドやっているところとは違う(笑)。世界17リージョン、セキュリティが気になるユーザー向けにも国内の関東、関西2カ所でAzureを提供しており、ディザスタリカバリー構成も利用できる」(樋口氏)
サーバーでは、Windows Server 2003が2015年7月15日にサポート終了を迎える。Windows XPのサポート終了時のように、大きな買い換え需要、そしてビジネス契機でもある。
「Server 2003は年間出荷台数の半数となる30万台が依然として稼働している。成長率は高いものの、サポート終了に向けてはまだまだ移行速度が低いと言われている。モダンOSだけではなく、Azureの活用もあわせて提案していきたい。バックアップとしてのAzure追加も訴求できれば」(樋口氏)
マイクロソフトのクラウドサービスは、プラットフォームのMicrosoft AzureとOffice 365、そして業務アプリケーションの「Microsoft Dynamics CRM Online」だ。
「2月にAzureの国内リージョンを提供し、好評を頂いている。また、Office 365についても、教育分野ではGoogle Appsを抜いて170校が導入し、日経225の企業の60%に導入している。CRMは新たな力点として注力していく。これら3つのサービスを『マイクロソフト クラウド3兄弟』として打ち出していきたい。この3要素を兼ね備えているのはマイクロソフトだけだし、オンラインだけではなく、オンプレミス環境でも使えて、ミックスも出来たり、柔軟な対応が利点だ」(樋口氏)
クラウドと共に出遅れた「デバイス」についても、忘れてはならない。
「最近はiPadできること少ないねという声を聞く。震災で被災地にiPadが配られたものの、あまり利用されていない状況が多いということも耳にする。営業でノートPCとiPadを二台持ちするのでは本末転倒。フルPC機能を持ったタブレットを利用することで、端末コストと運用管理コスト、通信コストがグッと下げられる」(樋口氏)
クラウドやデバイスなどを含めたトレンドに、最後のトレンドとしてマイクロソフトが挙げるのは「セキュリティ」だ。
「関心がどんどん上がっている分野であるセキュリティは、マイクロソフトとしても重要視している。サイバーセキュリティ分野に大変な、膨大な人材を投入する予定だ。年間4億人がサイバー犯罪の被害を受けている状況は看過できない。行政機関が情報を盗み出すという話があったが、マイクロソフトとしては、いかなる行政機関であってもデータを渡さない」(同氏)
最後に樋口氏は、パートナー企業に対して、日本マイクロソフトとしての今後の意気込みを語った。
「日本ユーザーの要求品質は世界最高レベルにあるが、会社としてそれに応えていかなければならない。そのために、アメリカ本社に駐在を置くことで、共に品質向上を図るベースが出来ている。生産性を軸に、それを提供するプラットフォームをお客様に提供することが使命。日本社会に根付いた企業として、日本のITを支えていきたい。今後ともよろしくお願いします」(樋口氏)