NTTとNEC、富士通は9月4日、世界最高水準となる1チャネルあたり毎秒400ギガビット級のデジタルコヒーレント光伝送技術の実用化へのめどとなる伝送実験に成功したと発表した。
今回、毎秒400ギガビット級の信号を最大で62チャネルに多重化し、変調方式ごとに異なる容量の毎秒12.4テラビット~24.8テラビットの波長多重信号により数千km~1万kmの光ファイバ伝送を実証した。同技術を光送受信装置に実装することにより、従来の光ファイバを活用しながら4倍の光伝送が実現でき、超高画質映像の伝送やM2Mの普及拡大に耐えうる世界最高レベルの基幹網の構築が実現できるとしている。
具体的には、従来の毎秒100ギガビット伝送で採用している、光の位相に情報を重畳する4値位相変調(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)に加え、容量を拡大するために光の位相と振幅の両方に情報を重畳してさらに多値化を図った8値の直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)、および16値QAMを採用し、ナイキストフィルタリングと呼ばれる帯域圧縮技術によるサブキャリア多重を組み合わせた。これらの技術により、情報の伝送容量を従来と比較して格段に増大できる世界最高水準の毎秒400ギガビット級の超高速光伝送を実現した。
特に、光伝送路の特性に応じて、回線品質が適切な変調方式を選択することで、効率のよい光ネットワーク資源の運用を実現する適応変復調技術について、8値QAMを含めて電子回路に実装可能なアルゴリズムで実現し、QPSKと16値QAMでカバーしきれなかった、光ファイバ1芯当たり毎秒10テラ~20テラビットの容量で500km~1500km程度の伝送距離の領域をカバーすることができる。これにより、伝送距離など伝送路の状況に応じて同一のハードウェアで様々な変復調方式を実現でき、より適応性の高い柔軟なネットワークが実現できるという。
また、毎秒400ギガビット級の超高速光伝送を長距離で行うためには、高いパワーの光信号を光ファイバに入射する際、光の強さによって光ファイバの屈折率が変化し、複雑な波形の歪みを発生させる非線形光学効果により光ファイバへの入射パワーが制限されるため、その補償が必要となる。しかし、これまで多値変調信号が受ける光ファイバ中の非線形光学効果を補償する回路は規模が非常に大きく回路実装が困難であるという課題があり、長距離化の主要制限要因となっていた。今回開発したデジタル逆伝搬信号処理は、アルゴリズムと回路方式を工夫することにより、演算量を大幅に削減することで、回路実装が可能となり非線形光学効果の補償の機能を実現できた。さらに、そのために必要な技術として、波長ごとに光ファイバ中の伝搬遅延時間が異なる現象である波長分散の値を、光ファイバで1万km相当まで推定可能な波長分散推定技術も併せて開発した。加えて、高性能な誤り訂正符号MSSC-LDPCを活用して伝送距離のさらなる延伸を実現した。これらの技術により、長距離伝送における装置数の削減が可能となり、これに伴うネットワークの低消費電力化も期待される。
NTT、NEC、富士通の3社は、今回開発した技術を結集して、海底伝送路をモデルとした光中継伝送で最大1万km、陸上伝送路をモデルとした光中継伝送で最大3000kmのストレートラインでの伝送実験に成功し、回路実装可能なアルゴリズムで実用化に必要な機能を実現できることを確認した。なお、今回の伝送実験は情報通信研究機構(NICT)との共同研究に基づき、NICTの実験設備を活用して行われたものである。
今回の成果をもとに、3社は超高速かつ低消費電力で柔軟性を兼ね備えた世界最高レベルの光ネットワークの実現に向けた毎秒400ギガビット級光伝送技術の実用化開発を推進していく。併せて、国内外の機関とも連携して成果のグローバル展開を目指していくとコメントしている。