光合成は葉緑体の中の膜で反応が起きる。その光合成膜は普遍的にガラクトースの脂質から構成されており、そのガラクト脂質が光合成に欠かせないと考えられていた。この常識を覆して、グルコースの脂質膜でも光合成ができることを、静岡大学大学院理学研究科の粟井光一郎(あわい こういちろう)准教授らが実証した。光合成の膜に関する研究に刺激を与える成果といえる。東京大学の佐藤直樹教授、東京工業大学の太田啓之教授と共同研究で、9月1日付の米科学アカデミー紀要PNASのオンライン版で発表した。

図. ガラクトース(左)とグルコース(右)の化学構造のわずかな違い(提供:静岡大学)

植物や藻類、シアノバクテリアなどの光合成をする生物で、光合成反応の場となる膜はガラクト脂質でできている。ガラクトースはグルコースと1カ所の水酸基の向きが異なるだけだが、生体内ではグルコースの数百分の1しか存在しない。植物では脂質の骨格にガラクトースを転移してガラクト脂質を合成するのに対し、シアノバクテリアでは脂質の骨格に一度グルコースを転移した後、ガラクトースに変換して合成することが知られている。

写真1. シアノバクテリアの顕微鏡写真。左が野生型。右がmgdE遺伝子破壊株で、葉緑素の含量が少なく白くなった細胞も混在する。(提供:静岡大学)

写真2. シアノバクテリアの電子顕微鏡写真。左のWTが野生型、右のMUがmgdE 遺伝子破壊株。いずれも光合成のチラコイド膜が構築されている。(提供:静岡大学)

粟井准教授らは,これまで不明だったグルコースからガラクトースに変換するシアノバクテリアの酵素のmgdE 遺伝子を、ポーリネラという葉緑体に似た構造を持つ微生物のゲノム情報を用いて探しだし、その遺伝子を破壊したシアノバクテリアを作成した。遺伝子破壊株では、ガラクト脂質の代わりにグルコースを持つ脂質が蓄積していたが、光合成の活性を維持していた。電子顕微鏡で観察すると、遺伝子破壊株でも、光合成のチラコイド膜が形成されていた。この結果、ガラクト脂質が光合成膜に不可欠ではないことが初めてわかった。

この発見は、光合成膜の機能解明に進展をもたらした。今後、光合成に不可欠なタンパク質群の構造や安定性に膜脂質が与える影響を明らかにして、光合成システムの理解を促進し、エネルギー物質生産の効率化に役立つことが期待される。

粟井光一郎准教授は「これまで光合成で当たり前と思われていたことが、当たり前でなかったことが一番大きい。膜脂質をグルコース型からガラクトース型に転換する酵素の遺伝子を見つけたことで解析が可能になった。この研究をさらに進め、生物にごく少ないガラクトースを使ったガラクト脂質が光合成膜にあまねく存在する理由を突き止めたい」と話している。