蓄電性能の高性能化に極めて重要な役割を果たす、硫黄正極と金属リチウム負極の全固体リチウム-硫黄電池の開発に、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の宇根本篤(うねもと あつし)講師と折茂慎一(おりも しんいち)教授らが成功した。錯体水素化物「水素化ホウ素リチウム(LiBH4)」を固体電解質として使う独自技術を実証し、高エネルギー密度型全固体電池の開発にめどをつけた。次世代の蓄電池開発に道を開く成果として注目される。東北大学金属材料研究所と三菱ガス化学との共同研究で、8月25日付の米物理学会誌Applied Physics Lettersオンライン版に発表した。

写真. 今回開発した全固体リチウム-硫黄電池(提供:東北大学)

電池の蓄電性能は電極材料の組み合わせで決まる。硫黄の正極と金属リチウムの負極はそれぞれ、従来の電池の電極と比べて10倍以上の理論容量を有するため、蓄電性能の大幅な向上を達成できる可能性を秘めている。しかし、有機電解液を利用する既存の電池へ硫黄正極を適用した場合、放電に伴って硫黄正極が有機電解液へ溶出してしまうため、放電と充電のサイクルを繰り返すと、蓄電性能は著しく劣化してしまう。

グラフ. 全固体リチウム-硫黄電池の放充電プロファイル。20回の繰り返し放充電後も硫黄正極重量当たりのエネルギー密度は1590Wh kg–1(比容量820mAhg–1)と高い値だった。少なくとも45回の繰り返し放充電動作に成功し、硫黄正極重量当たりのエネルギー密度は1410Whkg–1(比容量730mAhg–1)と、安定に動作することを確認した。(提供:東北大学)

この課題を解決するため、世界中で有機電解液にかわる固体電解質の研究が進められているが、電池に実用化できる固体電解質はごく一部に限られていた。研究グループは、錯体水素化物の電池用固体電解質としての高い機能性に着目し、錯体水素化物をベースに新規固体電解質の開発を進めてきた。錯体水素化物LiBH4は軽い材料で、120℃で極めて高いリチウムイオン伝導率を示す。今回、この錯体水素化物を電池の固体電解質として使った。

開発した全固体リチウム硫黄電池は、少なくとも45回放充電を繰り返しても、顕著な劣化が起こることなく、硫黄正極重量当たりのエネルギー密度が1410Whkg–1以上と、従来の電池に使用されている正極材料の2~3倍以上の高い値で安定に動作することを確認した。研究グループは「この成果で、蓄電池の小型化・軽量化を達成するための高エネルギー密度全固体電池構成の指針を示した」と意義を強調している。特許も出願した。

宇根本篤講師は「全固体電池は蓄電池を小型、軽量化して、さらに性能を上げるのに欠かせない。その実現に一歩近づいた。今回は動作温度が120℃だったが、今後、室温でも安定に電池として作動する固体電解質の開発を進め、早期に実用化を目指したい」と話している。