高純度・高結晶性ダイヤモンド薄膜成長時に、カラーセンターの一つであるシリコン(Si)空孔(Vacancy)-センターを極微量の濃度(炭素原子1千億~1兆個に1個)に制御して導入し、単一光子源として作製することに、筑波大学の磯谷順一(いそや じゅんいち)名誉教授と物質・材料研究機構の寺地徳之(てらじ とくゆき)主幹研究員らが世界で初めて成功した。ドイツのウルム大学のフェドー・イェレツコ教授らとの日独共同研究で、8月22日の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

図1. ダイヤモンド中のSiV-センターの構造。黄色は最近接の6個の炭素原子を示す。(提供:筑波大学)

ダイヤモンド薄膜の極限成長技術で作製し、結晶中の離れた位置にある単一光子源からは、2光子間で最大91%の大きな発光スペクトルの重なりを実現した。固体中の複数の位置から識別できない光子を発生するこの技術は、量子干渉を用いる量子光学、量子コンピューティング、量子情報ネットワークなどに固体中の単一光子源を用いるための重要な一歩として期待される。

図2. SiV-を単一光子源として観測される濃度に制御して結晶成長中に導入したCVDダイヤモンド単結晶の共焦点顕微鏡イメージ。蛍光スポットのほとんどが単一のSiV-センターに由来する。(提供:筑波大学)

図3. 固体結晶にとって難題だった不均一な波長のひろがり(上図)を解決し、識別することが困難な光子(下図)を発生する単一光子源を多数作製することに成功した。(提供:筑波大学)

波長の決まった光子を一度に1個のみ発生する単一光子源は、量子暗号通信・量子情報処理に欠かせない基本デバイスだが、明るさや安定性が課題だった。ダイヤモンド中のカラーセンターはこれらの課題を克服できる単一光子源の候補とされていたが、CVD(化学気相成長)で均一な特性と低濃度を得るのは難しかった。研究グループは、CVD ダイヤモンド単結晶の高純度化と高結晶化に取り組み、SiV-センターを極微量の濃度に制御して導入し、ダイヤモンド結晶の極限成長技術を開発した。これで、識別困難な光子を発生する単一光子源を結晶中に多数作製することに成功した。

「色中心」を意味するカラーセンターは、ダイヤモンドの規則的な結晶格子中に、不純物原子や空孔で置換された状態で、着色されることがあるため、こう呼ばれる。SiV-センターはダイヤモンド結晶中の炭素原子2個がシリコン原子1個で置き換えられたもので、発光する波長は近赤外線に近い赤色である。この日独共同研究は2011年から、欠陥制御などダイヤモンド材料科学で蓄積のある日本チームと、量子操作で最先端に立つドイツチームが協力して取り組み、量子コンピューティングのブレークスルーを目指した。

研究グループの磯谷順一名誉教授は「固体結晶中の異なる多くの場所に、同じ波長の光を出す単一光子源を作製することに成功したのはわれわれが初めてだ。完璧に高純度、高結晶のダイヤモンド薄膜を作り、石英ガラス窓などからの混入ではなく、意図的にごくわずかなシリコンを加えた。量子コンピューターや量子通信の基礎になる成果で、応用面でも、ダイヤモンドの高品質化の面でも重要な意味を持つ」と話している。