昨今、モバイルアプリ開発を加速する手段としてMBaaS(Mobile Backend as a Service)が注目を集めている。モバイルアプリ開発に欠かせないバックエンド機能をサービスとして利用することで、アプリエンジニアがフロント機能の開発に集中できることが大きなメリットだ。では、MBaaSとは具体的にどんな機能が提供されているのだろうか?MBaaSをグローバル展開するKiiの執行役員 石塚進氏に、同社のサービス「Kii Cloud」について話を伺った。
キャリア品質のモバイルサービスを簡単にグローバル展開
「Kii Cloud」はKiiが2012年から提供している日本発のグローバルMBaaSだ。モバイル開発に欠かせないプッシュ通知やユーザー管理、データ管理、位置情報といったバックエンドの機能をクラウドで提供している。最大の特徴は、クラウドのサーバが日本だけでなく、アメリカ、中国、シンガポールにあることだ。
「国内市場向けに展開していたモバイルアプリでも、海外のサーバに簡単に切り替えられるため、スムーズな海外展開が実現できます。逆に、最初から海外市場に向けてモバイルアプリを展開することも可能です。最近よくいただくのは、日本向けに開発したモバイルアプリを中国で展開したいというご相談です。中国にはGoogleの公式アプリストアがないなど、日本とはずいぶん勝手が違います。そうした海外事情を考慮したサービスを提供できることが当社の強みです」と、石塚氏は話す。
Kiiは2007年11月に、モバイルデータの同期サービスを提供するシンクロア社として設立された。シンクロア社はNTTドコモの携帯電話向けに「電話帳お預かりサービス」のバックエンドシステム構築を支援するなど、キャリア品質のモバイルサービスを提供する企業として知られていた。その後、2010年7月にデバイスサーチ事業を行っていた米Servo Software社を吸収合併し、Kiiと社名変更。Kii Cloudを主力事業にグローバルなサービスの展開を開始した。
Kiiの拠点は現在、日本本社のほか、米国カリフォルニア州、中国上海にある。ユーザーは、パートナー開発者のアプリケーションネットワークを通して、全世界で数千万人超におよぶ。このように、Kiiは日本のモバイル市場を長く支えてきた企業であり、キャリア品質のサービスをグローバル展開できるというユニークな企業なのだ。
悩めるモバイル開発者のニーズに応える
なぜ同社のソリューションは数千万人超に利用されているのか。その理由として石塚氏は、「モバイルアプリ開発の現場で起こっている課題に応えることができているからではないか」と話す。同氏によると、モバイルアプリ開発の現場は、いま、大きく2つの課題に直面しているという。1つ目は、開発のスピードが速くなっていることだ。
「リリースの速度が上がり、割けるリソースが不足するようになっています。時間が足りず、開発者が足りない。アプリ開発を得意とするフロントエンジニアが苦手なバックエンドを担当し、生産性を落としているケースも少なくありません。そんななか、バックエンドもフロントもこなすことができる"フルスタックエンジニア"といった職種まで現れるようになりました」(石塚氏)
2つ目の課題は、開発するアプリのバラエティが増していることだ。
「どのアプリがヒットするかは、出してみないとわかりません。ゲームがいい例ですが、1つのジャンルで多くのアプリを出す必要性が高まっています。その一方で、1つの企業が多くのジャンルでアプリを出すケースも増えてきました。例えば、ECアプリ、受発注アプリ、マーケティングアプリ、社内向けの情報共有アプリなどです」(石塚氏)
つまりモバイルアプリのエンジニアは、バラエティに富んだアプリを少ないリソースで迅速にリリースしていかなければならない。こうした課題を解消してくれるものがMBaaSなのだ。まず、バックエンドの処理をクラウドに集約することで、フロントエンジニアがアプリ開発に専念できるようになる。また、さまざまなアプリに共通する処理をクラウドに集約することでバラエティに富んだアプリ開発がしやすくなる。
Kii Cloudならではの特徴的な4機能
Kii Cloudは、こうした開発者の悩みに応えるためにユニークな機能を数多く提供している。ここでは特徴的な機能4つを見てみよう。機能の一覧は、同社のWebサイトで公開されている。
まず、プッシュ通知における「メッセージング通知」だ。プッシュ通知と言うと、マーケティングを実施したい運用側の企業がユーザーに対してメッセージをプッシュするといった使い方が一般的だ。一方、Kii Cloudでは、運用側からだけでなく、ユーザー間やユーザーグループ間での通知ができる。これを利用すると、グループチャットのアプリなども簡単に開発することができる。また、イベントやファイルの生成などをトリガーとして通知することも可能だ。
2つ目は、位置情報における「複数位置情報の保存と検索」だ。単にある地点の位置情報や緯度経度情報を取得するだけでなく、複数の位置情報を保存したり、ほかの属性要素と組み合わせて検索することができる。
3つ目は、ユーザー管理における「ログイン認証の豊富さ」だ。FacebookやTwitter、LinkedInのアカウントを利用した認証ができるようになっているほか、SMSを使った電話番号確認・本人確認が可能だ。さらには、docomo IDやGoogle ID、中国の最大SNSであるRenren(人人)、Weiboでのログインにも対応済みだ。
4つ目は、「A/Bテスト」だ。モバイルアプリでA/Bテストを行おうとすると、アプリストアでデザインの異なるバージョンをリリースするといった手間がかかっていた。これをアプリ自体にA/Bテストが実施できる機能を組み込む(SDKを提供)ことで、ストアへの申請なくテストができる。
「ユニークな機能の多くは、コミュニティからの要望をもとに実装してきました。ドキュメントの拡充にも努めており、サンプルコードが読みやすいといった評価をいただいています。当社のMBaaSを利用することで、本来のアプリ開発に集中してほしいという思いのもとで、ユーザーがほしい機能を提供しています」(石塚氏)
モバイルはいまや企業にとって避けることができない取り組みだ。MBaaSを取り入れてモバイル開発を加速させる企業は急速に増えている。では、MBaaSを選択する際の注意点や落とし穴はないのか。次回は、石塚氏にその辺りについて聞いていく予定だ。