たった1滴の血液に含まれるマイクロRNAを計測して、がんを簡単に早期診断できる画期的な次世代診断システムの開発を目指した産官学のプロジェクトの会見とキックオフ会議が8月18日、国立がん研究センター(東京・築地)で開かれた。全国の研究者や医師ら約100人が集まり、5年で79億円を投じる大規模なプロジェクトの成功への意思を確認し合った。

写真1. 記者会見する(左から)倉田健児NEDO副理事長、堀田知光国立がん研究センター理事長、米原徹・東レ先端融合研究所長

このプロジェクトは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が今年度から予算化した。国立がん研究センターの研究所と病院、東レや東芝などの企業が連携し、8大学なども加わる。患者への負担が少なく、多様ながんを一度に診断できる技術の開発を目的としている。このプロジェクトを通じて、新しい診断機器製造などの医療産業の育成も期待されている。

写真2. 高感度DNAチップの3D-Geneを使ったマイクロRNAの分析=国立がん研究センター研究所

図. 体液中マイクロRNA測定技術基盤開発のプロジェクトのイメージ図(提供:国立がん研究センターなど)

新しい診断法は、従来とまったく異なる原理に基づいている。がん組織はエクソソームという小胞(直径1万分の1㎜以下)を血液などの体液に出しており、中にそれぞれ特有のマイクロRNAを含んでいる。主要な13種類の臓器のがんについて、国立がん研究センターが患者の同意を得て収集したバイオバンクの膨大な血液試料から特異的なマイクロRNAを探し出す。この網羅的な探索は、各臓器のがんごとに5000例以上、計6万5000例以上実施して絞り込み、マイクロRNAデータベースを構築する。

エクソソーム中のマイクロRNA は22塩基ほどの小さなRNA 。ヒトのマイクロRNAは2500種以上知られているが、このうち、各種のがん特有のマイクロRNAは、がんの転移や病態変化などに関与しており、新しい疾病マーカーとして有望視されている。世界中でこの数年、盛んに研究されているが、患者の膨大なバイオバンクと照合して、実用的ながんマーカー探しはこのプロジェクトが初めてとなる。

エクソソーム研究の第一人者で、プロジェクトの研究開発責任者を務める落谷孝広(おちや たかひろ)国立がん研究センター分子細胞治療研究分野長は会見で「マイクロRNAは今までにないがんマーカーで、感度と特異性が高い。安価で迅速、正確なRNA 解析装置も作る。乳がんや大腸がんの研究が先行しており、できる限り早く使えるようにしたい。がんのマイクロRNAは人種を超えて共通なので、プロジェクトの成果は世界に発信できる」と話した。

マイクロRNAの分析では、東レの高感度DNAチップの3D-Geneが威力を発揮している。東レの米原徹(よねはら てつ)先端融合研究所長(専任理事)は「われわれはツールを持っているので、『事業化したい』という明確な意思を持って取り組む」と語った。また、倉田健児(くらた けんじ)NEDO副理事長は「プロジェクトの成果を広く医療現場に使えるようにしたい。日本の医療産業のイノベーションにつながっていく」と意義を強調した。堀田知光(ほった ともみつ)国立がん研究センター理事長は「5年間の国家プロジェクトで、世界をリードする。がん検診などの負担も減らしたい」と成果の最大化に意欲を見せた。

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