炎症と細胞死、これらを結びつける仕組みがわかった。細胞死を起こすような強い刺激でタンパク質分解酵素のカスパーゼ1が活性化し 、それにより炎症が引き起こされることを、東京大学大学院薬学系研究科の大学院生の劉霆(りゅう てぃん)さんと山口良文(よしふみ)助教、三浦正幸(まさゆき)教授らがマウスの細胞実験で確かめた。多くの自己炎症性疾患や慢性炎症の治療戦略につながる発見といえる。理化学研究所との共同研究で、8月7日付の米科学誌セルリポーツに発表した。
生物が細菌感染か、損傷で組織の傷害を受けると、炎症が起こる。このとき、感染や傷害を受けた免疫担当細胞では、細胞内タンパク質複合体のインフラマソームによってカスパーゼ1が活性化され、最終的に炎症性サイトカインの分泌や細胞死に至る。この炎症性サイトカイン分泌制御の破綻は、自己炎症性疾患やがん、糖尿病といった慢性炎症が関与する病態に関わっている。しかし、これらの知見はたくさんの細胞の反応を集団として調べたもので、カスパーゼ1を活性化した際に炎症性サイトカインを出す細胞と、細胞死する細胞とが、同じなのかそれとも別々なのかは、よく分かっていなかった。
研究グループは、細胞内のカスパーゼ1の活性化を検出できる蛍光タンパク質プローブを開発した。それを用いて、マウスのマクロファージ(免疫担当細胞)ひとつひとつが、どのようにカスパーゼ1を活性化するか、調べた。その結果、カスパーゼ1の活性化は、ひとつの細胞内では、刺激の強さに応じて連続的(アナログ)に制御されているのではなく、全か無かのデジタルな様式で決まることを突き止めた。
さらに、単一細胞からのサイトカイン分泌を可視化する技術を組み合わせて解析したところ、炎症性サイトカイン(IL1Β)の急激な放出が、カスパーゼ1活性化に続いて数秒の間に、カスパーゼ1の活性化した細胞のみで生じることを見いだした。つまり、カスパーゼ1活性化で引き起こされる炎症性サイトカインの分泌も、全か無かのデジタルな様式で決まるのである。
研究を総合すると、カスパーゼ1には、活性化に必要な刺激の値(しきい値)が細胞ごとに存在し、この値を超える時にカスパーゼ1が活性化され、炎症性サイトカインのIL1Βを分泌することがわかった。興味深いことに、このしきい値は細胞死を引き起こすような強いものであるため、カスパーゼ1の活性化は細胞死と炎症を直接結びつけているといえる。
研究グループの山口良文助教は「開発したプローブで、カスパーゼ1を活性化して死んだ細胞を初めて捉えることができた。さらに、そうした細胞からのみ大量のサイトカイン放出が起きる様子が見えた。このプローブを使えば、免疫細胞だけでなく体のさまざまな細胞が炎症性細胞死をした際に、周辺の組織の炎症にどのような影響を与えるかを詳しく解析できるだろう。また、炎症の刺激に対して反応する細胞と、反応しない細胞を比較すれば、刺激への応答の仕方の違いを生み出す仕組みがわかるかもしれない」と話している。
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